望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

強権国家は国境外も脅かす

 3年前のクーデター未遂で非常事態が宣言されて以来、トルコでは16万人が逮捕され、公務員15万人余が解雇されるなど人権状況が悪化していると国連が報告書で指摘した。また、テロ対策を理由にクルド人に対する殺人や暴行、拷問などが行われている疑いがあると懸念を示した。

 そうした政治の中心にいるのがエルドアン大統領だ。3期12年間に渡って首相を務め、2014年から大統領職にある。首相時代には、経済を成長させ、国内外で友好的な対話路線に基づく関係改善を進めるなど、それなりの評価を得ている政治家だった。だが、長く権力の座にいたため権力の「毒」が回ったのか、次第に強権的な政治家へと変貌した。

 強権による統治を正当化するには、敵を設定して脅威を煽ることが手っ取り早い。国内でクルドの弾圧に方向転換したトルコはさらに、隣国シリアのクルド人民兵部隊が脅威だと、シリアに侵攻して軍事行動を続けている。シリアにはトルコの主権は及ばないはずだが、内戦状態のシリアにはトルコの軍事行動を止める力はない。

 ある国において強権による統治が行われているとき、その強権に抑圧されるのは国内にいる人々だけだと見える。だが、強権による統治が成立しているのは、国内において権力に対する制約、監視が失われているからであり、そうした強権政府に周辺国の人々も脅かされる。

 国内で人々を強権で抑圧している政権が、国際社会においては既成の秩序におとなしく従うなら国際社会に及ぼす影響は限定的だ。だが強権政府が国際社会で、既成の秩序に従うことよりも自己主張を強める言動をとることは、トルコの他にも中国、ロシアなどの例で明らかだ。

 ある国において、自由選挙により選出された代表による議会が国政の方向を定めるという民主主義が維持されることは、その国に住む人々にとって、強権による抑圧政治より、はるかにマシだろうが、周辺国の人々や国際社会にとっても歓迎すべきことなのだ。

 強権による統治体制の国家は、対外的に攻撃的で時には侵略的になる。それは、民主主義など「普遍」を目指す価値観を示すことができず、独自のナショナリズムぐらいしか掲げるものがないからだ。それは他国と共有することが困難であり、外交の場では無力である。外交(言葉)が無力であるから、対外的にも強権に頼ることになる。