望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

最速15分は長いか

 2016年3月に北海道新幹線が開業し、北海道内では木古内駅新函館北斗駅に新幹線が停車するようになった。本州から新幹線に乗って来た人が人気の観光地である函館に行くためには新函館北斗駅でアクセス列車(はこだてライナー)に乗り換える必要があり、所要時間は快速で最速15分(函館駅新函館北斗駅から約18キロ離れている)。

 この最速15分が「残念だ」と開業当時にメディアに現れた記事は指摘した。せっかくの新幹線の駅が函館市から離れた場所にあり、観光客が函館市に行くために、新幹線を降りて乗り換えて、さらに最速15分もかかるのはマイナスだとした。多くの記事で同じような主張が繰り返されたので、最速15分が残念なことだとのイメージは定着してしまった気配だ。

 しかし、最速15分はそんなに残念なのだろうか。函館駅に新幹線が直接乗り入れたなら最も利便性が高かっただろうが、そうすると札幌までの北海道新幹線の延伸に支障が出てくる(函館駅青函連絡船との連絡に便利な海際の位置に設置されたので、鉄路は行き止まりになる)。

 北海道新幹線は札幌までの延伸を前提に構想されたのだろうから、函館を新幹線の終着駅とすることはできず、また、函館駅で新幹線の進行方向を前後を逆に転換するのは高速鉄道では余計な時間がかかり過ぎだと判断されよう。新函館駅の設置箇所は札幌延伸に好都合な場所に限られるからアクセス列車が必要となった。

 どこかの観光地に新幹線に乗って行き、新幹線を降りてから、さらに移動に時間がかかることは珍しくない。例えば、大阪府内の唯一の新幹線駅である新大阪駅から大阪市内の各地に行くには在来線に乗り換えなければならない(新大阪駅から難波駅に行くには15分かかり、天王寺駅には20分以上かかる)。

 東京も同様で、新幹線を東京駅で降りてから、例えば吉祥寺駅に行くには在来線に乗り換えて30分近くかかるし、スカイツリーに行くにも約30分かかり、新宿に行くには13分、渋谷には30分弱、池袋には約25分、浅草には約20分、六本木には14分、下北沢には約30分などと、新幹線を降りてからの移動には時間がかかる。

 最速15分が残念だという指摘の根拠は曖昧だ。そこには東京のメディアが地方を見る視線の歪みが露呈している。歪みとは、地方には地方の物差しを当てて評価するが、東京などには別の物差しを用意すること。だから、世田谷区の住民が東京駅で新幹線を降りてから自宅まで移動する時間は問題にしないが、新函館北斗駅から函館駅に移動する最速15分は残念だと評価する。