太陽系の端にある冥王星に2015年、NASAの無人探査機「ニューホライズンズ」が1万2000キロまで近づき、鮮明な写真を送ってきた。地球から遠く離れた冥王星の姿はハッブルでも、ぼやけた画像でしか見ることができなかったので、人類は初めて冥王星の詳しい姿を見ることができた。
冥王星の鮮明な写真で話題になったのが、巨大なハート形。冥王星の表面は窒素とメタンで覆われているというが、ハート形の一部を拡大すると、高さ3千メートルを超す氷の山があり、数十キロにわたり山脈のような地形が続いていたり、巨大な亀の甲のような模様が連なった地形があったりと複雑で、地質活動が続いている可能性があると報じられた。
地球から冥王星までの距離は48億〜54億キロくらい(冥王星の軌道が傾いていて、楕円がかって歪んでいる)。この距離を移動するために「ニューホライズンズ」は、2006年1月19日の打ち上げから、2015年7月14日の冥王星への1万2000キロの最接近まで約9年6カ月かかった。光や電波では4.5時間かかる。
「ニュー・ホライズンズ」は史上最高速で地球を旅立った探査機で、宇宙空間では秒速15キロ以上、時速にすると56000km/時くらいで移動している。せっかく冥王星まで行ったのだから、周回軌道に入って観測するチャンスだと思うが、減速するための燃料は軽量化のため積んでいないので、冥王星の近くを通過するしかなかった。
9年半もの長い年月を要して冥王星に近づいた「ニューホライズンズ」。もし、この探査機に人が乗っていたなら、9歳半の年齢を重ねることになる。発射時に40歳の宇宙飛行士が乗っていたなら、49歳過ぎてやっと冥王星を近くで見て、そこからUターンして真っすぐ地球に戻ったとしても、地球帰還時には59歳だ。19年は長い。子供がいたなら、孫が産まれていても不思議はない年月だ。
ところで、9年半の宇宙生活を支えるには、どれだけの物資が必要になるのだろうか。食糧で考えると、9年半は約3500日になるから、1日3食とすると1万食以上になる。全てを宇宙食として発射時に積み込んで持って行くとすると、重量がかさみ、冥王星まで9年半で行くためには強力な動力源を備えなければならないので、燃料が余計に必要になる。
2人を搭乗させるなら2倍、3人なら3倍となるので、重くなった分だけ強力な動力源が要り燃料も多く積まなければならない。宇宙船内で食糧を生産できれば、打ち上げ時の重量を軽減できるだろうが、閉鎖空間で継続的に食糧を生産できるシステムはまだ開発されていない。
9年半もの宇宙旅行中に飛行士は「冬眠」しないとすれば、様々な観測を毎日行うことになる。360度に見える天体を観測するだけで、それなりに忙しいだろうが、宇宙空間は広大で暗く、どこを見ても、おそらく同じような光景が広がっているだけだろうから、刺激は乏しいかもしれない。そんな中で9年6カ月……退屈が宇宙でも大敵か。