望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

どこから何が飛んで来るやら

 だいぶ前に「ディープ・インパクト」というハリウッド映画がありました。径10キロの巨大彗星が1年後に地球に衝突すると米大統領が発表、米政府は100万人収用の地下都市を作る一方で、宇宙船を打ち上げて彗星を破壊しようとするが、失敗しちゃう。為す術もなく人類は破滅を待つのみとなるが、ラストで、宇宙船の生き残りパイロットたちが崇高な自己犠牲というやつで、彗星に宇宙船ごと突入して核爆弾を爆発させて彗星を破壊、地球を救うんですね。



 宇宙空間で、地球を救うための自己犠牲というパターンの映画はほかにも、クリント・イーストウッドブルース・ウィルス主演のものを見た記憶がありますから、このテの映画がはやっていたのかも。どれがオリジナルで、どれがパクリなのかは知りませんが、“崇高な自己犠牲”てなお涙ちょうだい演出が、当時はウケたんでしょうね。



 でも、宇宙空間が舞台のSFものだから娯楽作品のように見えているだけで、映画の構造はプロパガンダそのもの。地球上で軍人が、お国のために我が身を犠牲にするとか、部隊や仲間を救うために爆弾を抱えて敵陣に突っ込むという映画だと観客は引いてしまうだろうが、宇宙空間で宇宙飛行士が、地球を救うために自己犠牲するとなると、現実感がなくなるんでしょうね。



 ところで、径10キロの彗星が地球に衝突すると、衝突の震動だけでも凄まじく、衝突した場所が海なら巨大津波が発生しそうです。見てみたい気もしますが、その場に居合わせると無事ではすまないな。実際に、6600万年前にメキシコのユカタン半島に直系10キロぐらいの天体が衝突し、地球規模で環境が激変、恐竜絶滅を招いたそうです。



 「地球の内部で何がおこっているのか?」(光文社新書)から引用します。


「衝突による衝撃と熱によって、直径200kmの凹地(クレーター)が造られた。おそらく数百mの波高を有する津波が沿岸域を襲い、また、高温の爆風は森林を根こそぎにすると同時に焼き払ったに違いない。


 さまざまな大きさの溶けた岩石や巨大岩塊が降り注ぎ、岩石しぶきはガラス玉となって広い範囲に散らばった。噴煙柱は、すぐに全地球を覆い、太陽光線が遮られ、地上温度は急冷化しただろう。地球は暗黒の冷夜に何日もつつまれて、光合成植物には大打撃となった。


 やがて上空の塵が落ちて大気が少し澄んでくると、水蒸気やCO2による温室効果が著しくなり、今度は温度が急上昇していった。


 激しい温度変化、広い範囲に降り注いだ灰、津波や森林火災によって、生態系は大打撃を受けた。これに適応できなかった生物は滅び、一部は生き残り、新しい生態系へと変化していった。今日の地球生態系を出現させるうえでの一つの大きな出来事だった」



 衝突の高熱で溶けて吹き飛んだ岩石が、ユカタン半島から1600km離れた北米東岸沖で発見されているという。おそらく数千キロにわたって、溶けた岩石が降り注いだんでしょう。人類の歴史はまだ1千万年にもならないのに、恐竜は2億年以上も君臨した。その恐竜を絶滅させた彗星衝突、恐るべし。