望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





保護という思想

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で2010年に開催され、名古屋議定書と愛知ターゲットが合意された。愛知ターゲットでは、今後10年間で陸域の17%、海域の10%を保護区とする目標を定めた。





 環境汚染は抑止しなければならないし、環境の激変を防ぐことができるなら防いだほうがいいし、種の多様性は維持したほうがいいし、絶滅の危機に瀕している生物は保護したほうがいい。ただ、現在を基準にして、地球の自然環境を維持・固定すべきと考えると、そうした思考は袋小路に入る。なぜなら、地球環境は常に変化して来たし、常に変化しているから。



 ヒトと類人類が分かれたのは700万~1000万年前という。60万年前にアフリカで旧人が生まれ、世界に進出したが、その後、20万年前にアフリカでホモ・サピエンス(新人)が誕生、世界に広がり、現代人につながっているという。人類自体が固定したものではなく、大いなる変化の中で誕生したものだ。



 この20万年の間にも地球環境は様々な変化を経ただろう。大陸移動は千万年単位の話だが、20万年の間にも、氷河期があり、各地で火山が噴火し、大地震が起き、海進などもあって地形は様々に変化しただろう。生物も20万年の間に、絶滅したものもあれば勢力を拡大したものもあろうし、どこかで誕生した種もあるかもしれない。



 環境保護や生態系保持などを主張する側には、自然を固定しようとする期待があるように見える。現在の人間が考える美しい自然、多様な生態系が、人類の努力により固定できれば成功なのだろうが、地球は人類に優しくはないので、これからも世界各地で火山が噴火し、大地震が起き、山火事が起きるだろう。



 地球環境は常に変化し、人類もその変化の中で生きるしかないとすれば、環境保護や生態系保持に関する考えも変わって来よう。例えば、地球環境の大変化が起きずに恐竜が絶滅しなかったとすれば、人類は誕生していただろうか。誕生していたとしても人類は、現在のような文明を築くことができただろうか。