望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ライトバード衛星

 ライトバード(LiteBIRD)は、2028年の打ち上げを目指している宇宙マイクロ波背景放射偏光観測衛星だ。月よりも遠い宇宙空間で全天精査を行い、原始重力波を検出することを計画する。もし原始重力波が検出できれば、宇宙が超高温・超高密度の火の玉状態から膨張したというビッグバン以前に、素粒子よりも小さかった宇宙が異常膨張したという「インフレーション」仮説が証明される(以下の説明はjaxaサイトなどを参照・引用した)。

 ・宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は宇宙のあらゆる方向から一様に地球に降り注いでいる電磁波。誕生から約38万年後の宇宙でやっと電磁波が自由に宇宙空間を伝わることができる(宇宙の晴れ上がり)ようになり、その頃の宇宙に満ちた電磁波が現在はCMBとして観測される。CMBの存在そのものが、ビッグバンの重要な証拠とされる。

 ・原始重力波とは、ビッグバンの前に起きたインフレーションの異常膨張で生じた重力波重力波超新星爆発などで生じた時空のゆがみが波として伝わる現象だが、インフレーションで生じた重量波は、天体の運動で生まれる普通の重力波と区別して原始重力波と呼ばれる。原始重力波の検出なくしてインフレーション仮説を証明することはできないとされる。

 ・CMBの偏光を観測することにより、ビッグバン以前の宇宙を探ることができる。原始重力波はインフレーションで生まれた後、晴れ上がりの時にも宇宙空間を満たしており、CMB偏光の分布に特殊な渦巻きパターンを刻印したと予想されているので、それを検出すれば、インフレーションが起きたことの証拠となる。

 ・原始重力波の検出に成功すればノーベル賞級の成果だとされ、各国が挑戦しているが、まだ検出に成功した研究チームはない。地上観測は行われているが、大気の影響による限界があり、全天観測が困難であるため、CMB偏光に特化した人工衛星による観測が必須と見られている。だが、欧米での観測計画は実現せず、日本のライトバード計画が唯一の2020年代に実現可能な衛星計画となった。

 ・インフレーションは一瞬(宇宙誕生後の1秒のマイナス36乗〜マイナス34乗という超短時間)の出来事で、素粒子よりも小さかった宇宙が異常膨張し、放出された熱エネルギーがビッグバンになったという。ビッグバン以後、宇宙の膨張とともに素粒子ができ、陽子や中性子、原子へと物質生成が進み、さらに星ができ、銀河や銀河団が形成され、やがて生物がつくられていった(インフレーションが起きる前の宇宙については、「ゆらぎ」があるだけの無だとの仮説がある)。

 宇宙は膨張を続けていることが観測されており、遡ると宇宙の全物質と全エネルギーなどが1点に集まっていて、ビッグバンという大爆発からずっと膨張を続けているというのが現在の宇宙論だ。この宇宙には始まりがあり、それが138億年前のインフレーションやビッグバンだとしたなら、空間や時間、運動なども宇宙誕生とともに誕生したことになる(存在という現象も誕生した)。