望潮亭通信

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銀河系外から来た宇宙線

 宇宙空間を光に近い速度で飛び交っている高エネルギーの宇宙線は、原子核素粒子などの極めて小さな粒子。地球外から大気に飛び込んでくる高エネルギーの粒子(放射線)が一次宇宙線(陽子が約90%、残りの大半はヘリウムの原子核)。一次宇宙線が大気中の原子核に衝突して生じるのが二次宇宙線(中間子・電子・γ線などの放射線)で、地上に到達する宇宙線は二次宇宙線

 高エネルギーの宇宙線は太陽系外に起源を持つとされ、「飛来する宇宙線は10の8乗eVから10の20乗eV(可視光の1億倍から1垓倍のエネルギー)という幅広いエネルギーでやってくる」「最も高いエネルギーで到来する一次宇宙線の粒子1個のエネルギーは、電球1個が1秒間に放つエネルギーにも値し、放射性原子核起源の放射線の100兆倍、加速器実験で人工的に作り出せる最高エネルギー粒子の1000万倍のエネルギーにもなる。このようなエネルギーにまで粒子を加速するメカニズムが宇宙のどこに存在するのかは解明されていない」(宇宙線研究所HP)。

 太陽系外から来る宇宙線は、超新星爆発による衝撃波と銀河系内の磁場によって加速を続ける宇宙線と、銀河系内の磁場では閉じ込めることができない10の15乗eV以上の高エネルギーの宇宙線があり、後者は銀河系外から飛来したと考えられている。「比較的エネルギーの低い宇宙線は多数到来するが、太陽系内や銀河系内の強力な磁場によって進路を曲げられて発生場所の情報を失う。最高エネルギーの宇宙線は強力な磁場にも進路をほとんど曲げられることなく到来するが、大変稀少」(同)。

 太陽も宇宙線の発生源だ。太陽フレア(太陽表面で起きる大規模な爆発)などがあると大量の宇宙線と電磁波が地球にもやってきて、電磁波が地表の電子機器などに大きな影響を与えたり、人工衛星を破壊したり、長距離ケーブルの電線で火災を発生させたりなどする。太陽の周辺では水素原子はプラズマ状態になっていて、太陽フレアなどで吹き飛ばされた粒子がエネルギーを得て宇宙線となる。

 eVとは電子ボルト。素粒子原子核、原子、分子などの運動エネルギーを表す単位で、1eVは1個の電子が真空中で1ボルトの電位差で加速されたときに得る運動エネルギーの大きさ。蛍光灯が光るときのエネルギーは2eV程度。10の20乗eVという膨大な運動エネルギーをもつ宇宙線は極めて少なく、その検出が大きなニュースとなった。

 大阪公立大学などの国際研究グループは、観測史上2番目に高いエネルギー(2.44×10の20乗eV = 244エクサeV)を持つ宇宙線の検出に成功した。この粒子は南西の方角から飛来したといいい、1991年に米国で検出された粒子(320エクサeV)に次ぐ高いエネルギーを持っていた。244エクサeVは計算上、1グラムあれば地球が破壊されるほどと報じられた。

 「巨視的なエネルギーをもつ宇宙線の発生源は、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストや、活動銀河核中心の超巨大ブラックホールやそこから吹き出すジェット、宇宙最強の磁場を持つ強磁場中性子星といった宇宙における極限物理現象を起源に持つと予想されている」(同)が、今回検出された宇宙線が到来した方向には候補となる有力な天体が見つからず、未知の天体現象や、暗黒物質ダークマター)の崩壊など標準理論を超えた新物理起源の可能性も示唆されると解説された。