望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

エネルギーと物質

 アインシュタイン特殊相対性理論から導かれた「E=mc²」は、エネルギーと質量の等価式で、相互に変換可能であることを示す。物質からエネルギーを取り出すことは地球上でも原発核兵器で実際に行われている。太陽のような恒星は核融合反応により膨大な熱と光を放出しているが、これも物質の一部がエネルギーになったものだ。

 エネルギーから物質を取り出すことを行うのが加速器だ。電子や陽子などの粒子を光速に近く加速して高いエネルギー状態にさせて衝突させると、その衝突エネルギーから粒子が生成されるという実験が日本を含め各国で行われている。物質に光(紫外線)が当たると光のエネルギーが電子に与えられ、電子が飛び出てくる光電効果は光センサなどに応用されている。

 物質とエネルギーが相互に変換可能だということは、物質とエネルギーは状態が異なるだけで基本的には同じ何かだということになる。「H₂O」は温度によって固体・液体・気体と状態を変え、氷と水と水蒸気は全く別もののような外観・性質になるが、同じH₂Oからできているとのイメージが分かりやすいかもしれない。ただし、物質とエネルギーの変換が可能になるには、とてつもない温度と圧力が必要だ。

 現在の宇宙のエネルギー比率は、恒星や銀河など存在が確かな物質が4.9%、暗黒物質ダークマター)が26.8%、暗黒エネルギー(ダークエナジー)が68.3%と考えられている。星や銀河など宇宙を構成すると考えられてきた観測可能な物質が約5%しかなく、95%という宇宙の大部分が未知の物質とエネルギーで満たされていることになる。エネルギー比率で表すのは、物質とエネルギーが等価であるから可能になる。

 人類が観測できない未知の物質やエネルギーが宇宙には大量に存在すると、なぜ判断するのか。宇宙に関して世界で大量の観測データが蓄積され続けるとともに、観測機器の高度化や各種の電波を使った観測も行われるなど精密な観測が可能になって、以前は人類が気がつかなかった様々な現象が観測され、宇宙の詳しい姿が徐々に明らかになりつつある。

 暗黒物質は、多くの銀河の回転を詳細に観測して得られた大量のデータから、銀河外縁付近の星々はケプラー回転(中心に引かれる重力と、遠心力が釣り合っている時の回転運動)により推測される速度より速く回転していることが判明し、見えない物質=暗黒物質が存在して銀河の運動に影響を与えていると理解された。
 
 暗黒エネルギーとは、50億年ほど前から宇宙の膨張速度が加速していることが明らかになり、膨張が加速しているのは、星や銀河が引き合う重力よりも大きな逆向きの力が働いていることであり、そうした力を作用させる何らかのエネルギーがあると理解された。暗黒エネルギーの正体は全くわかっていないという。

 物質とエネルギーの変換は、宇宙では珍しくない現象なのだろう。それは人類や地球を含め宇宙の全てが、物質にもなり、エネルギーにもなる何かで構成されていることを示す(『ミクロの窓から宇宙を探る』=藤田貢崇著を参照しました)。