望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

超新星爆発はいつ?

 オリオン座の赤色超巨星べテルギウスは、いつ超新星爆発を起こしてもおかしくないとされてきたが、東京大学などの国際共同研究チームは明るさの変化を分析し、べテルギウスがまだ爆発する状態にはなく、超新星爆発は10万年以上先だとした。現在生きている人々が超新星爆発を見ることができるとの期待は遠のいた。

 研究は、べテルギウスの中心部でのヘリウム燃焼段階が、爆発が起こる10万年以上前の状態であるとした。また、べテルギウスの質量や半径が従来考えられていた値より小さいことや、地球からべテルギウスまでの距離は従来考えられていたよりも25%近いことも明らかにした。べテルギウスの現在の質量は太陽質量の16.5倍から19倍ほどで、半径は太陽半径の750倍、べテルギウスまでの距離は地球から530光年。

 実際よりもべテルギウスが遥か遠くにあると推定し、遠くにあるのに非常に明るいから巨大であり、中心部での核融合反応が鉄を融合させて次の段階に進んでいると考えて超新星爆発がすぐにでも起きるか、既に起きたと従来考えられてきた。近くにある発光体を遠くにあるとみなすと、発光体の大きさなどを過大に見積もるのは当然か。

 超新星爆発は一つの銀河で100年に1個ほどの割合で起きるとされ、べテルギウスが超新星爆発を起こすと地球からは半月と同じくらいの明るさになり、日中でも見えるほどだとされた。超新星爆発といえば、かに星雲1054年に起きた超新星爆発の出現は藤原定家の日記「明月記」をはじめ中国などにも記録が残っており、超新星爆発の噴出物などは今でも膨張を続けていることが観察されている。

 太陽質量の8倍以上の恒星では中心核でヘリウムから鉄までを核融合で合成するが、鉄の核融合に至るとエネルギーが吸収されるようになるため、中心部から放出されるエネルギーよりも重力が優って恒星の表面が中心部に向かって一気に落ち込むと共に激しい爆発現象となる。これが超新星爆発。この時の莫大なエネルギーにより核融合が次々に起こり、ウランまでの元素が作られる(『ミクロの窓から宇宙をさぐる』藤田貢崇)。

 この宇宙には大小様々な銀河が2000億個あるとされたが、2兆個以上あるとの推定もあり、宇宙では超新星爆発は珍しい現象ではない。だが、人間の寿命と地球から肉眼で見ることができるとの条件では、超新星爆発を見ることは極めて稀なことだ。今回の研究チームのメンバーは「べテルギウスの超新星爆発は、残念ながら今生きている私たちが見ることはできないだろう」とする。

 今回の研究もさらに新たな研究により上書きされるだろう。そうして、いつかべテルギウスの大きさや位置などが精密さを増して認識されるようになり、人類の宇宙に対する知見は拡大する。科学は仮説と検証の繰り返しで成り立つものであり、仮説と真理との判別ができない人は科学(仮説)を絶対視したりして誤る。CO2排出増加による温暖化論や新型コロナウイルス感染拡大対策などで科学を振り回す人々の中には科学(仮説)を絶対の真理とする人々が散見される。