望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

仮説と検証

 2014年の連休中の5月5日の早朝、伊豆大島近海を震源とするM6.0の地震があり、東京都心で震度5弱を観測した。東日本大震災以来、東京でも震度4までの地震は珍しくなかったが、震度5クラスは久々。首都直下地震との関連が案じられたが、この地震は深さ162キロの太平洋プレート内部で起きたものなので、首都直下地震とは異なるタイプの地震だと気象庁



 この地震のメカニズムをマスコミは、プレートの動きで説明した。曰く、関東の地下は、陸が乗る北米プレートの下に東から太平洋プレートが、南から相模トラフ沿いにフィリピン海プレートが沈み込む複雑な構造をしている。首都直下地震の想定震源は北米プレートと太平洋プレートの境界面などと考えられ、今回の地震は、沈み込んだ太平洋プレート内の162キロという深い場所で起きたので、首都直下地震とは別物だとした。



 地球の地殻は十数枚のプレートで構成され、それぞれが動いているというのがプレートテクトニクス理論。この理論が認められたのは20世紀半ばだ。大陸移動説はもっと前から唱えられていたが、立証が困難だった。世界各地での様々な観測結果が蓄積してから、やっと定説となった。



 プレートの動きは地面を見ても分かるものではなく、地震が起きた時のプレートの滑りを見た人もいない。だが、理論は構築された。ある程度の知見から仮説を立て、多くの研究者が様々な観測データを蓄積して、その仮説が、現実に起きていることを説明する有効性があると認められる。こうして科学は進歩してきた。



 仮説を立てて、検証することが大事なのは、科学に限らない。例えば通販では、カタログやサイトに載せる商品が過去の売れ筋だけだったら、販売は先細りする。少し先の売れ筋の仮説を立てて商品を提案し、その販売実績で検証し、好売れ行きの商品ならプッシュし、売れない商品は外して、別の商品を提案する。売れ筋は様々な要因で変化し続けるので、仮説と検証を繰り返していく。



 個人の意見にも、直感に基づいた仮説が多いかもしれない。他の人からの批判や共感が検証にあたり、批判により軌道修正したり、共感を得て確信を持ったりする。他人からの検証をいやがるのでは、いくら声高に激しい言葉で言い募ろうと、仮説は仮説のままでしかない。批判される勇気、反論される勇気を持つことが、仮説と検証には必要だ。