望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

首都圏から移住者

 コロナ禍で企業はリモートワークの拡大を余儀なくされ、社員皆が出社しなくても業務が回ると実証されたことで、そのままリモートワークが拡大定着するかと見られた。だが、対面での情報交換や意思疎通が大事だとの再評価も出てきて、新型コロナウイルス感染症が5類移行し、コロナ禍前の日常に復帰するとともにリモートワークの拡大に勢いが見られなくなったという。

 過密な首都圏への人口流入がコロナ禍で頭打ちとなり流出傾向が見られるとの報道もあったが、首都圏からの人口流出の動きは定着せず、コロナ禍前の日常に復帰するとともに首都圏への人口流入が以前のように起きているという。就職や就学などの利便性や歓楽の場に富む首都圏の人口誘因力は強力だ。

 地方の都市や郡部では人口流出が続いているし、高齢化も進む。それは購買力の低下をもたらし、地方の鉄道やバスは赤字続きとなり、地方の商業施設は赤字続きで閉店が相次ぎ、農業や漁業や中小企業などでは後継者難から事業継承が見通せず先細りするばかりとなる。地方では人口減少が購買力低下となって現れ、停滞感を後押しし、若者らの流出を加速させている。

 こうした中で地方の都市や郡部の自治体が最優先で取り組むべき課題は、人口を増やすことだ。移住者を増やすための試みは方々で行われていて、それなりに効果を上げている自治体もあるが、首都圏からの地方への人口分散が進んでいるなどとは言えない。政府にも本気で首都圏からの人口分散を進める気がないと見られ、このままでは地方の都市や郡部の過疎化は止まらず、疲弊は進む。

 地方の都市や郡部が人口を増やすためには、人口の多い場所から移住者を引っ張ってくることだ。具体的には過密な首都圏から移住者を集めることだ。そのため、首都圏とは異なる自然環境や子育て環境などの魅力をアピールするとともに、就業・就学・医療などの環境を整え、都市生活者の生活レベルの低下が少ないことを保証することが必要になる。

 従来の地方の都市や郡部の移住者獲得策は、地方の魅力を訴求することに重点が置かれ、移住者の具体像が曖昧だった。田舎暮らしへの憧れと移住が混同されると、自然豊かな環境での暮らしに憧れる人=移住者との限定されたイメージにとらわれ、例えば、首都圏とのつながりを維持したまま移住したいとか、移住しても都市生活の利便性を手放したくないーなどの需要に真摯に向き合うことが少なくなったりする。

 リモートワークの定着は、地方の都市や郡部への移住に追い風となる。首都圏の会社に勤めながら、地方の都市や郡部で生活するという移住者を支えるのは強固なインターネット網だ。地方への移住希望者が首都圏にどれだけ存在するかを調査し、その人たちの具体的な要望に応えて地方の住環境を整備することが、地方の都市や郡部の自治体が行うべき首都圏からの移住者獲得策だ。