望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

地方都市への移住

 東京など都会から地方への移住というと、農山村など田舎への移住をイメージする人がいる。一方で、移住先での人間関係のトラブルなどで、移住者が住みづらくなって引き上げざるを得なかった事例も伝えられる。農山村などには明示されていないが住民が共有するルールがあったりして、移住者は困惑する。

 人口が少ない農山村などでは住民の人間関係が密で、移住した人が地域に溶け込むには時間を要したりする。それも移住生活の味わいだと気長に構えることができればいいが、都会生活のリズム感を引きずって悠長な暮らしに馴染めなかったり、田舎暮らしがユートピアであるかのような過剰な幻想を持つ人は、田舎暮らしに対する幻滅を感じたりもする。

 東京などへの人々の流入の一方で地方では過疎化が進む。大地震の可能性があるので首都圏からの人口分散が急務だが、現実には人口分散は進んでいない。そこには都市での生活の魅力がなお大きいことがある。農山村よりも都市のほうが圧倒的に生活の利便性は高いので、人々は田舎で暮らすよりも都会で暮らすことを選ぶ。世界各国においても都市に人々が流入するのは珍しいことではない。

 人々が集中することにより過密になると大都市における生活は相応の閉塞感や摩擦、不便さなどを生じる。それらが田舎暮らしへの願望につながったりするのだが、農山村への移住は、短期なら気晴らしにはなっても、都市生活に馴染んだ人々が適応するのは簡単ではないだろう。都市生活における利便性を諦めずに、過密な都市空間からの脱出を実現するには、農山村などへの移住ではなく地方都市への移住が現実的だ。

 人口が30万〜10万人くらいの地方都市は全国に多く存在し、そうした都市でも人口減少が続いていたりするが、就業先や商業施設、病院、学校などは大都市に比べると少ないが存在する。都市生活の利便性を諦めずに、過密な大都会から脱出して暮らすには適している移住先だろう。

 人口が30万〜10万人くらいの地方都市は数カ所の繁華街のほかは住宅地であることが多く、遠くはない郊外には自然が広がっていたりし、東京などの都市生活者にとって都市生活の利便性を確保しながら、過密に伴う摩擦などから解放される生活環境だ。東京などから地方への移住先としては農山村よりも地方都市のほうがハードルが低いだろう。

 移住の促進策は様々に講じられているが、人口分散の動きはほとんどない。東京など都市に集まった人々の多くは都市生活の利便性を享受し続けることを選んでいるように見える。都市生活に馴染んだ人々に過密な東京などからの移住を促すには、農山村よりも地方都市での生活のほうが現実感をもって想像できるだろうから、地方都市での暮らしを訴求したほうが効果はありそうだ。