望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

乏しい分析

 日本で2022年10月頃から新型コロナウイルスの新規感染者数の増加傾向が続いて第8波の感染拡大とされたが、2023年1月中旬ころから減少傾向に転じた。第8波で政府は厳しい行動制限を行わず、欧米に倣ったのか経済活動を持続させたが、それでも第8波の感染拡大の勢いは弱まった。

 なぜ第8波の感染拡大が弱まったのか。新型コロナウイルスの感染拡大がある程度の期間で自然に減るのなら、以前の厳しい行動制限などは必要ではなかったことになる。専門家はウイルスの変異によって感染拡大の波を説明するが、変異株と感染拡大の因果関係は推定の域とも見え、実証できているのか疑問だ。

 今回のパンデミックでも顕著だったのは、現実に起きていることをデータ化して分析し、それに基づいて対策を講じるというシステムが政治に乏しいことだった。事実やデータを軽視して対策を講じるとすれば、対症療法的な大衆迎合の情緒的な方向に向かう。その例が昨今のマスク着用をめぐる方針だ。

 マスク着用を日本で人々が続けるのは感染することを恐れているからだ。屋内でのマスク着用も個人の自由だと政府はするが、マスクを着用しなくなって、さて感染するのか、感染しないのか。それを知る手掛かりは、日本よりも早くマスクを人々が着用しなくなった欧米などの各国の感染状況のデータだ。

 マスク着用義務を解除した後の欧米各国の感染状況のデータは、マスク着用と感染状況にどういう関連があるのかを示すものだろう。部分的には感染拡大があったりしても欧米各国では感染拡大の波に襲われてはいないと伝えられるので、欧米のマスク非着用後のデータを精査すれば、日本でマスクを着用しなくなった後の感染状況が類推できよう。

 将来予測などを正確に行うためには、現実に起きている事実を知ることが必要で、現実に起きていることのデータを収集して分析することが基礎となる。第9波があるのかどうかを予想するためには、第8波がなぜ収束に向かっているのかを知ることが必要だ(第7波以前の分析も必要だ)。

 なぜ第8波の感染拡大は弱まったのか、推察はあるが具体的な説明はない。マスクを着用しなければ感染は拡大するのか、不安を煽るマスメディアも欧米などのデータを検証しようとしない。今回のパンデミックでは政府もマスメディアも大騒ぎを続けているが、事実を重視した冷静な分析は少ないという印象だ(主観的な分析=個人の意見や解釈=は多い)。