望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

掘れば出てくる

 東京湾の埋め立て地である「お台場」に2003年に温泉ができて大人気になったそうな。湯に入るにも順番待ちだったとか聞くと、ゆったりした気持ちになるのが温泉の魅力だろうに、何故そんなに頑張ってまでして行くのかと疑問を感じるが、まあ、それは人の好き好き。ご苦労さんです。

 ところで、この温泉、地下1500メートルから汲み上げていたのだという。関東平野の80%では地下深く掘ると「温泉」が出てくるのだそうだ。待ってよ。そりゃ、地下1500メートルも掘れば温められた地下水もあるだろうさ。それを温泉と呼ぶのには抵抗があるぞ。法的な定義はともかく、無理やりでっち上げた温泉なんぞは大きな銭湯でしかない。

 山間などの温泉へ行くのは大半が都市住民である。それなら需要のあるところに温泉をつくればいい……経済合理主義って言うんだろうな、こんな発想は。温泉幻想を客と共有するところに新たな商売のネタがあるとガッポリ儲けた奴等は、どこかの温泉の高級旅館に行って、のんびりしているのかも知れない。

 お台場の温泉が当たったのだから、同様のことを始める奴等がぞろぞろ続いただろう。次には23区に一つずつ、いや山手線の全ての駅に、さらには都心の主要な地下鉄駅には温泉場ができるかも知れない。どこかの社長の新築邸宅が地下深くから汲み上げた温泉付きだと週刊誌が報じたことがあったが、金のある連中は自宅に次々と温泉を設置するようになるのかな。

 ところで、工場などの地下水汲み上げによる地盤沈下が問題になったことがあった。地下1500メートルから「温められた地下水」を汲み上げる連中が増えると、何十年後かには地盤沈下が始まり、やがて一気に東京のあちこちで陥没が起き、お台場は東京湾に消え、傾いた高層ビルの上部が海面から出ていた……なんてことが起きるぞ。おっ、これは映画にできそうだ。