望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

トリカブト





 崖から転落したクルマの中で死んでいたドライバーは事故死だと見られていたが、毒殺された後でクルマに乗せられたものと判明、用いられた毒はトリカブトだった……なんて設定は、ミステリーやサスペンスドラマなどで珍しくない。日本のドラマでは、中毒にさせる設定ではヒ素、殺人ではトリカブトや青酸が用いられるのが定番のようだ。



 トリカブトの毒は塊根にあり、乾燥して使うものだと聞いたことがあるが、葉にも毒があるとは知らなかった。2012年に函館で、山菜と間違えておひたしに調理してトリカブトを食べたらしい人が死亡した。ニリンソウと間違えたと見られている。家族3人で小鉢1杯分を食べ、うち2人が死亡、1人が重傷というのだからトリカブトの毒は強力だ。



 この死亡事故の後、函館保健所はHPで、有毒植物への注意を呼びかけている。HPで写真を見ると、確かにトリカブトニリンソウは紛らわしい。花が咲くと違いが見分けやすいというが、まだ花は咲く前だった。被害者は植物図鑑で確認していたとも伝えられるが、葉の形はよく似ており、高さも10センチ程度というから、見極めは簡単ではないだろう。



 同保健所のHPは他の紛らわしい有毒植物も掲載、ニラとスイセンヨモギフクジュソウ、セリとドクゼリ、ギョウジャニンニクとスズランを見分けて、間違えないように注意喚起している(いずれも前者は無毒、後者が有毒)。注意点として、迷う場合は採取しない/迷う場合は食べない/混生があるので1本ずつ確認する/調理前に再度確認する/異常を感じたらすぐ病院へ行く、などを挙げている。



 トリカブトの毒の多くは根に含まれているというが、この事故で葉にも毒があることが広く知られた。ミステリーやサスペンスドラマで今後、トリカブトの登場機会が増えるかもしれないが、現実にもトリカブトを利用しようとする不心得者が出て来る可能性がある。かといって山菜採りを全面禁止することはできない。



 トリカブトは日本に約30種あり、平地から高冷地、寒冷地まで広く自生しているというから、入手しやすい毒物だ。トリカブトに含まれる毒成分はアコニチンで致死量は1.5~6mg。解毒剤や特効薬はないため、治療には催吐や胃洗浄が行われるという。うかつに手を出したりすれば、取り返しがつかないことは確かだ。