望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





育成か即戦力か

 自分のやりたい仕事がはっきりしており、そのための幅広い知識や実践的なスキルも身につけ、協調性を保ちつつも自分独自の意見を言うことができ、英語は使いこなすことができる……というような学生は少ないだろう。でも就職をしなければならないというわけで、秀でては見えないが劣っているようには見られたくないと、同じようなスーツ姿で、同じような受け答えを習得する。



 独では日本のような一括採用はなく、各企業が必要な時に求人を随時行い、採用に際してはインターン経験が重視されるという。独でのインターン期間は普通は6カ月というから、単なる就業体験ではなく、それなりの「戦力」になることが求められる。一流企業でのインターン経験は求人応募時にも重視されるというから、独の学生は多くの企業でインターン経験を充実させることに励むとか。



 大雑把にいえば、日本の企業には集団主義が色濃く残り、新人採用後の社内研修や業務の中で企業カラーに染めつつ育て上げるとともに、会社にとって有能な人材を選抜して行くのに対し、独企業は、必要な人材を必要な時に採用するという即戦力重視型だといえる。



 独企業が即戦力重視で求人を行うことができるのは、インターン制度があるからだろう。独では、インターンの報酬は低く、出ない場合もあるという。それでも学生がインターンに応募して来て、短期間から長いと1年間も働く。つまり、日本では新入りらがやるような仕事はインターンで間に合わせることができるので、正社員の求人は即戦力に絞ることができる。一概に独の就職事情を誉めるわけにもいかない。



 ただ、若者が正社員として会社に入ってからは、独のほうが安定感がありそうだ。日本では入社3年以内に辞める若者が3割とか、最近は4割以上だとか言われる。独ではインターン制度で学生は就業体験と社会的経験を蓄積し、入社してからの仕事イメージを持ちやすく、配属されても戸惑うことが少ないだろう。



 日本では学生は入社してから、就業の「現実」に直面する。ブラック企業は論外としても、長時間労働であったり、期待されるレベルが高すぎたり、人間関係の上下が厳しかったりで、甘くはないと痛感したり、幻滅する。日本の学生は社会経験が乏しく、社会的意識が希薄だから幻滅感を持ちやすいともいえようが、それは学生にだけ責任を問うことはできない。



 「怒れる」若者を消滅させ、異議申し立てをしない若者を増やすような教育制度を支えて来たのは社会の側であり、同時に、若者が働きやすいような就業制度・労働環境に改革することにも積極的ではなかった。日本の学生が、素直そうだが弱々しく、型に合わせようとし過ぎているように見えるのも、社会の側がそれを是認し、時には求めてきたからだろう。