望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





守ってあげたい


 Jポップの歌詞に「あなたを守りたい」という種類のフレーズがある。最も有名なのは、1981年に松任谷由実が17枚目のシングルとして発売、ヒットした「守ってあげたい」で歌われたものだろう。その影響かどうかは知らないが、いろいろな曲で同様のフレーズを耳にすることが今では珍しくなくなった。



 このフレーズが印象に残ったのは、女性から男性に対して発しているからだ。「守ってあげたい」という思いを従来からも女性は持っていたのだろうが、あからさまに女性が口にすることは少なかった。相手を守りたいとの気持ちは愛情の一部なのだろうが、それを口に出して歌い、それがすんなり受け入れられたのだから、男女の関係が変化し、社会も変化したのかもしれない。ちなみに男女共同参画社会基本法が施行されたのは1999年。



 男性が女性に寄せる心情を「守ってやりたい」の言葉に託して歌うのは演歌にはありそうだが、Jポップの場合は、女性の心情として男性を「守ってあげたい」と歌う。競争社会で闘っている男の大変さを女性がやっと理解できるようになったのかと思いたいが、おそらく違う。男性に庇護される存在から女性が脱し、対等な存在としての意識が広く女性に共感・共有されるようになったのかもしれない。



 半分冗談で言えば、強くなった女性が、男性の弱さを意識するようになり、さらには、守る対象として男性を認識するようになったのが、ちょうどバブル期だったのかも。男性を「支える」から「守ってあげたい」に変化したのは、日本女性の意識が近代化した現れである……かどうか知らないが、男性に対する遠慮めいたものが薄れたのは確かだ。



 ただ「守ってあげたい」の言葉は、具体的に何らかの暴力から男性を守るという意味ではない。仕事などでの人間関係、権力闘争などから愛する男性を具体的に守るということでもない。あくまで愛情表現であり、せいぜいが、辛かったら私に愚痴を言ってもいいのよ……てな程度だろう。もちろん、「それでは」と何回も愚痴を言うようだと、見放される可能性はあるが。