望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





奇妙で害なす存在

 


 ウイルスは、細菌などと同じ微生物とのイメージがあるが、実はウイルスは奇妙な存在だと、福岡伸一ハカセの「生物と無生物のあいだ」を読んで知った。ウイルスは細胞を持たず、代謝をせず、ひっそり“固まった”ままの存在で、遺伝子は持っているが単独では増殖できず、他の動物の体内に入ってから増殖活動を始めるのだという。



 飯も食わなきゃ糞もせず、自力で増えようともしないウイルスは生物学では非生物とされるが、DNAかRNAを持ち、動物の体内の細胞の中に取り込まれた時にだけ、増殖が可能となる。といってもウイルスが自ら積極的に動くのではなく、細胞のほうが間違えてウイルスの遺伝子をも増殖させる。ウイルスを増殖させてあげた細胞は、その後、増殖したウイルスにより破壊されるというからタチが悪いや。



 細胞をもたず、自力で代謝も増殖もしないウイルスは非生物だが、遺伝子を持ち、“他力”で増殖可能なのだから生物に近い存在。物質と生命の境界線あたりに漂っているのがウイルスなのかもしれず、生命の起源に関係ありそうだという気もするが、現実には様々なウイルスが人間に災いを及ぼす。



 鳥インフルエンザ厚労省によると、1)鳥類に対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスのヒトへの感染症、2)通常はヒトに感染しないが、きわめて稀に感染する場合がある、3)ヒトへの感染は、感染した鳥やヒトと濃厚に接触した場合、という。



 ついでに、4)鳥インフルエンザウイルスがヒトからヒトに感染するのはきわめて稀であり、感染の事例は、患者の介護等のため長時間にわたって患者と濃厚な接触のあった家族の範囲に限られている、という。なお、高病原性鳥インフルエンザとは、感染した鶏が高率に死亡するような病原性が高い鳥インフルエンザのこと。



 H@N@型とは抗原のタイプを表す。2003年以降にアジアや中東、アフリカなどで人に感染し、多数の死者を出したのがH5N1型の鳥インフルエンザだったが、2013年に中国で感染が広がり、死者が出たのがH7N9型。感染者や死者は、鳥類販売など鳥と濃厚に接触した人に限られるとの報道がなされたが、ヒトからヒトへの感染が始まれば、一気に感染が広がる可能性があった。



 インフルエンザの他にもノロウイルスエイズウイルス、SARSウイルス、天然痘ウイルスなど人間に害を及ぼすウイルスは多い。細菌よりも小さいウイルスの存在が認知されたのは百年少し前という。物質のような生命のようなウイルス。遺伝子だけを保存しているような“生き方”は何が目的なのか。人間には有害なだけとも思えるウイルスだが、その存在には深い意味がありそうにも思えてくる。