望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

神の怒り

 マレーシア・ボルネオ島で15年6月5に発生したマグニチュード6.0の地震で、キナバル山(4095m)では地滑りや落石により登山客18人が死亡した。マレーシアは火山も地震もなく、台風の襲来もなく、天災リスクが世界的に低いとされていたので、今回の地震に現地の人々は大層驚いたそうだ。

 そのキナバル山の山頂付近に地震発生当時、187人の登山客らが取り残され、大半が自力で下山したが、犠牲者が出た。世界遺産のキナバル山は東南アジア最高峰で、麓はジャングル、登るにつれて植生が変化し、山頂に近づくにつれて植物は見られなくなるという。登山道や宿泊設備は整備されているといい、日本から全5、6日間の登山ツアーが発売されているた。

 地震の1週間前にキナバル山の山頂付近で、裸になって写真撮影したり、放尿したりした10人の外国人登山客がいた。彼らが山頂で裸になった理由は伝えられていないが、ガイドの忠告を無視して、裸になったり、放尿したという。さらに、その写真をネット上に投稿していたというから、「思い出」づくりのために旅先でバカを演じただけかもしれない。

 10人のうち4人(カナダ人、英国人、オランダ人)をマレーシア警察が逮捕、裁判所は公然わいせつ罪で有罪とし、禁固3日と罰金、国外追放の判決を下した。キナバル山は先住民族の聖地であり、この地震は「山の怒り」がもたらしたとの説が地元で広まっていたというから、警察は外国人登山客の行為を無視できなくなったのだろう。ネットの写真で人物を特定したそうだ。

 外国人登山客が自国の山でも気軽に裸になっているのかどうかは知らず、登山して山頂で裸になることが流行っているのかも知らないが、趣味が悪い行為だ。山岳信仰は世界各地にあり、人々に大切にされる山は世界各地にある。キナバル山での行為は現地の文化に対する冒とくであったことは確かであり、止めようとしたガイドに罵声を浴びせたというから、思慮の浅い人達であったのかもしれない。

 ある山が精霊が宿っている聖地である……ということは客観的には証明できない(キリスト教などの神の存在だって客観的に証明できない)。ある信仰を迷信だと軽んずることは、現地の文化への気配りに欠け、他者の宗教を尊重していない行為だ。信者にとって信仰は主観的には絶対のものであるだろうから、互いに他者の信仰を尊重しなければ摩擦が起きるだけだ。

 裸になったり、放尿した外国人登山客の行為と地震に関係はないだろう。だが、自然に対する敬意に欠けた行為であることは明らかだ。彼らは単なる解放感(旅行先の外国でもあるし)からハメを外しただけかもしれないが、愚かさを世界に発信した。商業化されたツアー登山は、行かなくてもいい人まで山頂に行くことができるようにしている。