望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

自業自得だろうけど

 嫌われ者の蛇。でも飼う人もいるんですね。アオダイショウやシマヘビなら野外で捕まえてくることもできよう。でも野生の蛇は気の荒い個体が多いといわれ、ダニなどの外部寄生虫や線虫などの内部寄生虫をほとんどが持っていて、ウイルスや細菌まみれともいわれる。獲って来て、飼う前に消毒するのがいいのかもしれないが、そんなことをすると蛇自身が弱ってしまいかねないし、あいつらはヘソを曲げると拒食する。



 輸入物ならミルクスネーク、コーンスネーク、キングスネークなどが入手しやすく飼いやすい。エサを毎日やらなくてもいいし、掃除もたまでいいし、あまり動かないから楽だと気を緩めると、感染症や脱皮障害など健康状態がおかしくなっても見逃しがち。飼育箱の定期的な掃除と規則正しい給餌にプラスして、注意深い観察が欠かせない。あいつらは意思表示をしてくれないからな。



 以上は無毒蛇の話。一方、有毒の蛇の飼育には知事の許可が必要だが、条件が厳しく、実質的には禁止されている。しかし、飼っている人がいるんですね。



 猛毒を持つコブラなどヘビ51匹を無許可で飼っていたとして2008年に動物愛護法違反(特定動物の無許可飼育)の疑いで東京都渋谷区神宮前六に住む柏木信一が逮捕された。柏木は7月15日に自宅マンションで全長約185センチのトウブグリーンマンバに餌をやろうとして左手をかまれ、自ら119番したが、意識不明の重体になり病院に搬送、約1ヵ月後の退院を待って逮捕された。



 室内で飼育されていた毒ヘビは1匹ずつ飼育ケースに入れられていた。押収された毒ヘビを当時保管していた群馬県太田市日本蛇族学術研究所(スネークセンター)でその飼育ケースを見たが、スーパーの買い物かごよりやや小さめ。そんな中にマンバやコブラ、タイパン、マムシ、ガラガラヘビなどをそれぞれ入れて飼っていたというから、度胸があるというべきか無謀というべきか。



 スネークセンターの資料によると柏木容疑者が飼っていたのは(数字は飼育数)、トウブグリーンマンバ3、ブラックマンバ1、シンリンコブラ2、ハナナガコブラ1、ケープコブラ1、クロクビドクフキコブラ5、アカドクフキコブラ2、オオドクフキコブラ2、リンカルスドクフキコブラ1、パプアマルガスネーク2、パプアデスアダー2、ラフデスアダー2、ニューギニアタイパン1、ニシキクサリヘビ1、ガボンアダー1、パフアダー3、ムーアクサリヘビ1、パレスチナクサリヘビ1、タイクサリヘビ1、ツノブッシュバイパー2、ニシキクサリヘビとガボンアダーの雑種1、ヌママムシ1、アメリマムシ2、シンリンガラガラヘビ1、トウブダイヤガラガラヘビ1、セイブダイヤガラガラヘビ1、クロオガラガラヘビ1、オレゴンガラガラヘビ1、イワガラガラヘビ1、ヒメガラガラヘビ1、メキシコハネハブ1、ヨロイハブ1、ブームスラング1。ぜんぶ毒蛇。

 積み重ねられた飼育ケースが地震か何かで崩れたら、ケースの外に出てくる蛇もいそう。毒吹きコブラは、離れていても、顔を狙って毒を吹きかけて来るぞ。スネークセンターによると、噛まれても血清を使わなくてもいいのはツノブッシュバイパーとヨロイハブのみ。無許可で毒蛇を飼っていた人が噛まれるのは自業自得かもしれないが、周辺に住んでいる人が被害に遭うのは、事故ではなく犯罪だ。

 これでまた蛇嫌いの人が増えそうだが、実は、ほとんどの人が気持ち悪いと目を背け、じっくり蛇を見たことのある人は少ないようだ。地球上には様々な生物がいて、蛇は奇妙な形態をしているが、顔つきや体表の模様を見比べると「違い」が分かってくる。

 スネークセンターで当時、柏木容疑者を噛んだトウブグリーンマンバのほか、ブラックマンバやニシキクサリヘビ、ブームスラング、パプアデスアダー、クロクビドクフキコブラアメリマムシ、パフアダーなど押収された毒蛇の一部が「原宿ヘビ」と表示されて展示されていた。グリーンマンバもブラックマンバも活発に動くので、展示ブース前には、いつも人だかりができていたぞ。