望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

神輿と山車

 毎年10月に開催される川越まつりでは、最上部に精巧な人形を乗せた高さ8メートルほどの山車が市中を曳き回される。山車の台車の上には囃子方と面をつけた舞い手が乗る舞台(囃し台)があり、その上部の二層の鉾と人形は上げ下げでき、高さを調節できるようになっている。

 川越の山車は、台車の上で舞台が水平に回転できるようになっており、夜間の巡行で交差点などで山車どうしが出合うと、互いの舞台を回して正面を向き合い、演舞合戦をする(曳っかわせ)。これが最大の見どころとされ、山車の周りに集まった観客の盛り上がりは最高潮になる。

 川越まつりは川越氷川神社の祭礼が起源という。山車が出る祭礼は関東各地にも多いのだが、関東でも特に東京の祭というと、神田祭三社祭、深川八幡祭りなどのような、神輿がメーンの祭りの印象が強い。各地の神社の祭礼が、神輿と山車に分かれるのはなぜか。

 一般的には、神輿は、神社にいる神が神社を出て氏子の間を回って御旅所まで行って帰ってくるときの乗り物とされる。山車は、山などにいる神が祭礼の時に招き入れられ、その落ち着き所(依り代)とされる。神輿では祭礼の時に御神体を神輿に移すが、山車には自然に山などから神が降りてくるとされている。

 また、人々が曳き回す山車には人が乗ってもいいいが、人々が担ぎ上げる神輿に人が乗ることは許されないなどの違いもある。山車では山などから訪れた神と混じり合って人々が祝うのが許されているのに対し、神輿に乗っている神は人々が畏れ敬う対象とされている。

 その土地に「定住」している神が神社を離れる時の乗り物が神輿で、その土地には「定住」していない神がやって来て一時の宿とするのが山車。どちらも神の存在が前提で、日本には数多くの神がいるとされるから、神と人間の接し方に様々な変化が生まれたのだろう。

 神社であれ山などであれ、そこに神が存在すると本当に信じている人が現在どれほどいるのか不明だが、各地で祭礼は多くの観客で賑わう。日本の神に対しては信仰を強制されないから、曖昧なままで多くの神の存在は否定されずに、神輿も山車も祭礼も受け継がれている。