望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

セルフレジ

 セルフレジを導入した量販店が増えているが、セルフレジでタッチパネルを操作して決済方法を選んだりして、一つずつ商品のバーコードをスキャンして代金を支払った客に対して、店側は何らかの割引を提供すべきだと、セルフレジを1年ほど前に初めて体験した友人は主張する。

 友人の論理はこうだ。ーー従来は店員がレジで商品を一つずつスキャンし、客の意向に合わせて決済方法を選んで決済していたが、その仕事(業務)によって店員は労働の対価として報酬を得ていた。セルフレジでは、従来のレジで店員が行っていた仕事(業務)を客が代わりに行う。これは、店側が必要とする仕事(業務)を客が行うように強制されているのだから、客が店側に労働させられていることになり、客の労働に対して店側は何らかの報酬を支払うべきだ。

 友人は以前にセルフレジを使った時、紙幣が内部で詰まり、店員が来てカバーを開けて見ても解決できず、さらに店員が来ても解決できず、けっこう待たされた記憶があり、同様に何かのトラブルで停止したセルフレジの前で困惑している客や店員の姿を何度も見かけたというから、セルフレジに対する不信感が芽生えているのだろう。

 機械を導入して自動化し、社員や店員が行っていた仕事(業務)を客が行うように強制することは広く行われてきた。省人化による人件費の削減や業務の効率化など企業にとってメリットがある一方、面倒な操作を強いられるだけで客がメリットを感じにくい自動化もある。面倒だと客が感じる自動化でも、客が我慢して使うことで続いていたりする(我慢しない客は離れて行く)。

 客もメリットを感じる自動化の代表は鉄道の改札だろう。以前は改札に社員が立っていて定期を目視で確認したり、切符に印を押していたりしたが、改札を通る乗降客の流れが遅くなったり、滞ることもあった。自動改札になって乗降客の流れがスムーズになり、不正乗車は許さんと客を睨みつけていた改札員がいなくなり、定期を見せたり切符を改札員に渡したりすることをせずに乗客はさっさとホームに行くことができるようになった。

 改札の自動化で改札員の仕事(業務)を乗降客が行うようになったが、スムーズに改札を通ることができるメリットを与えられた。ガソリンスタンドのセルフ給油はフルより数円安く価格が設定されている。量販店などでのセルフレジが客にどれだけメリットを感じさせているのかがボヤけているので、友人のように、セルフレジは客に負担を押し付けているだけだと感じる人も出てくるのだろう。

 セルフレジなどの自動化は企業にメリットがあると明らかだからセルフレジの導入は拡大するだろう。だが、客に我慢を強いるだけでメリットを感じさせない自動化を歓迎する客はいない。カスハラが問題化しているが、客が企業や店舗に要求することは否定すべきことではなく、カスハラとは異なる。そうした客からの要求を真摯に受け止める企業や店舗が展開するセルフレジなら、友人も納得できるものになるかもしれない。