プーチン氏がロシア大統領選で圧倒的な得票を得て当選し、通算で5期目の任期を務めることになった(今回の任期は2030年までの6年間)。今回は4人が立候補したが、プーチン政権を厳しく批判するような対立候補は立候補を許されず、選挙前からプーチン氏の当選は確定していた。
この選挙はプーチン氏に対する信任投票だったが、高い信任結果を演出するため投票率70%・得票率80%と高い目標が設定され、人々に対する投票参加とプーチン氏への投票を強制する動きがあからさまに行われたと報じられた。選挙結果に示されるべき民意は歪められ、プーチン氏は圧倒的に多数のロシア国民に支持されているとの結果を示すシナリオ通りの選挙だった。
今回、プーチン氏が当選できたのは憲法を改正したからだ。憲法の「同一人物が2期を超えてロシア連邦大統領を務めることはできない」に新たに「任期規定は、過去にロシア連邦大統領であった人物、現在ロシア連邦大統領である人物には適用されない」を加え、プーチン氏が2024年から大統領を2期12年務めることを可能にした。
この憲法改正は2020年1月に当時のプーチン大統領が提案、3月に上下院が承認し、国民投票を経て7月に施行された。投票率70%の国民投票で賛成は約78%だったというが、当時の野党指導者ナワリヌイ氏は投票結果を「真っ赤なうそ」だとし、プーチン氏が終身大統領になることを狙っているとの批判もあった。一方、モスクワなどでは、投票すると商品購入に使える最大4000ルーブルのクーポンが抽選で当たる特典も導入されていた。
ロシアにおける2020年の憲法改正はプーチン氏の主導により行われた。議会の審議や国民投票を経ているとはいえ、議会や国民はプーチン氏に逆らうことができない状況なのだから、これはプーチン氏が行った憲法改正だといえよう。ロシアにおいて憲法を改正する主権はプーチン氏にあるから、国家の最高法規である憲法も意のままにできるのだ。
日本国憲法では前文で「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と主権在民が規定されている(ただし、当時の占領下の日本で、憲法を制定する主権が日本国や日本国民にあったのか議論は分かれる)。
憲法に主権在民が規定されている国では主権は国民にあるが、その憲法を制定する権力があるから憲法が制定される。革命や独立戦争などで成立した国では憲法を制定する権力は国家や国民にあり、主権在民を憲法に規定することもできるが、主権在民を規定することができる権力があって、そうした憲法が成立した。ロシアの大統領選挙から見えてくるのは、主権は国民にはなく、憲法を制定・改正することができる権力が君臨しているということだ。