望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

8000万人

 日本の人口が減少に転じ、国内市場が縮小するため企業の売り上げは減るなど経済活動の停滞が予想され、インフラ整備や年金、社会保障などの社会システムの維持にも支障をきたし、人口減少が先行する地方では消滅する自治体が相次ぐなどと騒がれ始めて久しい。だが、想定される縮小する日本に対する有効な即効性がある対策は希薄な気配だ。

 昨年末に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の地域別将来推計人口」では、①11県で2020年比で2050年の人口が30%以上減少する、②25道県では2050年に65歳以上人口割合が40%を超える、③2050年の人口が2020年の半数未満となる市区町村は約20%に達する、④2050年には65歳以上人口が総人口の半数以上を占める市区町村が30%を超え、2050年の65歳以上人口が2020年を下回る市区町村は約70%に達する、④2050年の0〜14歳人口は99%の市区町村で2020年を下回るーとした。

 2050年の人口は東京都を除いた全ての道府県が2020年を下回り、2050年の人口が2020年より減少する市区町村数は1651(政令指定都市を1市としてカウントした1728市区町村数の95.5%)。うち0〜3割減少するのが605(同35.0%)、3〜5割減少が705(同40.8%)、5割以上減少が341(同19.7%)とする。 65歳以上人口割合が各地で増える一方、2020年比で2050年の0〜14歳人口が減少する市区町村数は1711(同99.0%)とほぼ全国だ。

 民間の人口戦略会議は1月、長期の人口戦略などをまとめた提言書を公表した。2100年に8000万人で人口が定常化することを目標に、人口減少の流れを変えることや、現在より小さい人口規模でも多様性に富んだ成長力のある社会を構築する戦略などを提案した。人口減少のスピードを緩和させ、最終的に人口を安定させることを目標とする定常化戦略では、合計特殊出生率2.07を2060年に達成するとし、そのために▽若者の雇用改善▽女性の就労促進▽総合的な子育て支援制度の構築―などを行うべきとした。

 現在より小さい人口規模でも多様性に富んだ成長力のある社会を構築する強靭化戦略では、生産性の低い産業の改革や人への投資の強化が重要だとし、▽人への投資の強化▽人口減少地域で医療・介護、交通・物流、エネルギー、教育などのサービスの質的強靭化と持続性向上▽日本での活躍が世界での活躍に直結するようなイノベーション環境の整備ーなどを論点として挙げた。

 報道によると、人口戦略会議議長の三村明夫氏は「政府も民間も危機意識を十分持っていなかった。2100年までに『これ以上減らない』という人口状況が必要だ。人口減少のスピードをとめるのが我々の責任だ」とし、副議長の増田寛也氏は「この数字が達成できなければ社会保障などは完全に破綻する。地域のインフラの維持も難しくなり、様々な場面で選択肢が狭められる社会になっていく」と述べた。

 「このままでは悪い状況になる」との悲観的な将来予測は珍しいものではないが、具体的かつ強制的な対策に結びついた代表例は気候変動をめぐる世界的な動きだ。一方、日本の人口減少については、過去の「産めよ増やせよ」政策の反省もあってか、子供を産むのは個人が決めることとの原則に国策として介入はできず、子育て環境を整備するとともに子育て世代の収入増を図るなどの対策に限られよう。

 合計特殊出生率は2.00を下回った1975年(昭50)以降、低下傾向が続いている。人口は敗戦後に急増して1950年(昭25)に8400万人、1967年(昭42)に1億人を超えたが、減少傾向に転じた。人口減少の一方、日本の国家財政は膨張に歯止めがかからず、赤字国債頼みの状態が続いている。2100年に8000万人で人口が定常化したとしても、赤字国債頼みの財政が維持できているのか。未来に責任を持たない日本の政治の貧困が見えている。