望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

人口1億人だった頃

 日本の人口は1億2805万7352人(2010年10月1日現在。日本人の数は1億2535万8854人)だが、少子化による人口減少が危惧されている。人口が減少すると、小学生が減り、中学生が減り、高校生が減り、大学生が減り、就労者が減り、婚姻数が減って家庭数が減り……となり、消費者が減るので日本の国内市場が縮小することから、企業の経済活動に大きな影響を与える。



 国内市場が小さいと、どうなるか。例えば韓国は国内市場が小さく、通貨危機でダメージを受けたこともあり、大手企業は国外の市場で売るしか成長の余地はない。政府も各種の施策で後押しし、ウォン安誘導も行うとか。製品だけでなくTVドラマなどでも海外市場を狙い、歌手は海外への出稼ぎで稼ぐ。日本企業は、先進国で人口1億人以上という大きな日本市場だけでも十分に成長の余地があった。



 その日本市場が少子化により縮小することは、日本の衰退を象徴することと語られたりもする。高齢化の進展などで社会のエネルギーが失われ、GDPでは中国に抜かれて世界3位に後退し、円高の「定着」で輸出関連企業などが国外に出て行き、国内の雇用が失われる。仕事が減れば、人々の収入も減るので国内消費も減るという悪循環。



 日本の人口が1億人を超えたのは1967年だった。大学紛争が活発で、山谷暴動、釜ヶ崎暴動などもあったが、社会には活力があり、自動車の保有台数が1000万台を突破し、TV受信契約が2000万を超え、農業就業人口が20%を割り、資本取引の自由化が始まったのも1967年だった。グループサウンドが人気で、レコード大賞は「ブルー・シャトー」だった。



 人口1億人だった54年前の日本は、対立が激しかったものの活力に満ちていたのだから、現在の人口から多少減っても日本は大丈夫だと大げさに心配することはないようにも見えるが、人口構成が変化している。54年前は団塊の世代を始め若い就労層が多かったが、その団塊の世代もリタイアを始め、高齢者の割合が高まり続けている。これから活発に消費する年齢層は薄くなった。



 ただ悲観的になりすぎると、そうした面にばかり目が行きがちになる。日本の人口は1912年(明治45年)に5000万人を超え、1936年に6925万人で明治初期の倍になった。戦後は人口増加率が年2%を上回り、1948年に8000万人を超え、1956年に9000万人を超えるなど増える時は勢いがあった。総人口が多いだけに、これからの人口減少も緩やかにしか進行しないだろうから、対策を考える時間は十分にあろう。



 日本の人口が1億人に減ったとしても、世界的には人口の多い国であり、GDPで3位になろうが4位になろうが、世界的に見れば経済大国である。それなのに衰退論が目立つのは、社会が硬直して閉塞感が高まる一方、新陳代謝が滞っているからかもしれない。坂口安吾の言葉を思い出すなら、衰退の中からこそ「突破口」が見いだせる。