望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり


石で遊ぶ

 ラッコが貝を割るために石を使ったり、木の幹の中の虫を捕るために鳥が小枝を使ったりと、自然界で道具を使う動物はいる。代表的なのはサルで、エサをとったりするために道具を使うという。そういえば、カラスはいろいろなものを使って「遊び」をすることで知られている。これも一種の道具使用例だろう。



 道具を使うということは、人間だけに許された能力とは言えないのかもしれないが、ラッコもサルも鳥も小動物の範疇に入る。肉体的能力が限定されているから道具を使うことを学習したのかもしれない。一方、体が大きく力が強い動物が道具を使うという話は聞かない。ライオンもワニもオオワシも牙や爪などだけで獲物をしとめる。



 クマはどうなのだろうか。前足で道具を使うことが可能なようにも見えるが、クマが獲物を襲う時に道具を使うという話は聞いたことがない。だが、オランダ・ロッテルダム動物園で2012年、シロクマがプールの底から人の頭大の石を上のほうまで運び上げ、シロクマの手から離れた石が、ガラス越しにシロクマを見ている観客のそばに当たった。



 それを記録した動画(You Tube)を見ると、シロクマが観客を狙ってガラスに石を当てたようにも見えるだけに、人間をエサと見たシロクマの行動なのかとの疑問さえ湧く。そうだとすれば、シロクマは人間と自分を隔てるもの(ガラス)があることを認識し、それを破壊するために石を使ったことになる。



 シロクマにはガラスが何かを理解することはできないだろうが、意図的に石を道具として使ったとすれば、目に見えない何か(ガラス)を破壊することが石をぶつけることで可能になると判断したことになる。そんなことがあり得るのだろうか。シロクマの知能はそんなに高いのだろうか。



 ロッテルダム動物園は、シロクマがプールの底にあった石を持ち上げて遊んでいるうちに、石がガラスに当たってしまったと発表しているそうだ。シロクマの頭の中は人間には分からないだろうし、類似の行動が繰り返して見られないなら、偶発的な行動だったとするしかない。ただ、シロクマが石を使って遊ぶということは、飼育下では珍しくはないことなのか気になる。