望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

枯れたりしない

 ザ・ローリング・ストーンズが2024年4月から米国ツアーを行うと発表した。4月28日のヒューストン(テキサス州)から7月17日のサンタクララカリフォルニア州)まで各地で16回のコンサートが予定されている。2カ月半で16回の公演になったのは、間隔を空けているためだ。

 ミック・ジャガーは1943年7月26日生まれで80歳、キース・リチャーズは1943年12月18日生まれで79歳だからもうすぐ80歳、ロン・ウッドは1947年6月1日生まれで76歳。引退して静かに悠々自適の余生を過ごしていても珍しくはない年齢だから、さすがに連日のライブはきつくなったのだろう。椅子に座ったままでライブを行う高齢のミュージシャンもいるが、そんな静かなライブは彼らには似合わない。

 悠々自適の余生を過ごすだけの資産は蓄えているだろうから引退してもおかしくはなく、ロック・ミュージシャンでも墓碑銘に名を連ねる人が多い年齢なのだが、彼らは活動をやめない。彼らは今年、新作「ハックニー・ダイアモンズ」を発表し、好評だ。オリジナル曲がメインのアルバムは18年ぶり(2016年にブルース・ナンバーをカバーした「ブルー&ロンサム」をリリースしている)。

 3人にはそれぞれ専属トレーナーがついて健康管理や体調維持などに細心の注意がはらわれているのだろうが、いくら周囲がサポートしても本人らに音楽活動を続ける意欲がなければ、バンド活動は続けられないだろう。創作意欲が衰えていないから新作アルバムを作り、ステージに立つ意欲と観客の前に身をさらす覚悟があるからツアーを続ける。

 3人に活動を続ける意欲があり、それを支援する周囲の環境があり、3人の活動を歓迎するファンが世界中にいる。論語では「四十にして惑わず」「五十にして天命を知る」「六十にして耳したがう」と続き、最後は「七十にして矩をこえず」とあるが、3人なら「八十にして引退せず世界を騒がす」だな(彼らは20代から世界を騒がし続けてきたのだが)。

 意欲といえば、山村や漁村や地方都市などで元気に働いている高齢者は珍しくなく、テレビの旅番組などでタレントが出会った住民と会話する中で、「82歳だよ」「90歳だ」などと話すのを聞いてタレントが驚く場面は珍しくない。元気で活動している高齢者は何らかの役割を意欲的にこなしている様子で、求められる役割があり、それに応える意欲があれば、簡単には「枯れたりしない」のは3人にも共通する。

 高齢になって枯れる(=欲望が薄れる)人は古潭の境地に達したなどと称賛されたりするが、枯れるだけが理想の高齢者の生き方ではない。やりたいことをやる高齢者が周囲に迷惑を及ぼすと暴走老人などと揶揄されたりするが、やりたいことがあって枯れたりしているヒマはないと生涯現役を貫くのも理想的な高齢者の生き方だろう。枯れたりしない人生は面白そうだと3人は示している。