望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ゴジラの老後

 東宝映画「ゴジラ」が公開されたのは1954年(昭和29年)だから、67年前のこだ。水爆実験により太古の眠りから目覚めた大怪獣だとも、核実験の放射線で恐竜が変異した生物だともされるゴジラは、体長50mという巨大な体を持ち、海から東京に上陸してビルなどを破壊し、さらに口から放射能火炎を吹くという、暴れっぷりを見せた。

 恐竜が進化したものなのか、生き残っていた恐竜が核実験の放射能で変異したものなのか、正体がよく分からないゴジラだが、2004年に現れたのを最後に出現しなくなった。1998年には米東部にも現れたが、その体つきは一変しており、ゴジラと同一種ではなく亜種だったようだ。ゴジラはどうしているのだろうか、死んだのだろうか。

 1954年に初めて現れたゴジラが生き残っているとすれば、67歳+αの年齢になり、人間世界では初老扱いされ始める頃だ。ゴジラは1954年に既に“成獣”だったので、今は70歳を超えているのは確かそうだが、まだまだ“働き盛り”なのか、初老なのか、ゴジラの寿命が分かっていないので判断しようがない。

 ゴジラは体力が衰えて“引退”したのかどうかを知るには、寿命を知るのが手がかりになる。体の大きな哺乳類でみると、象の平均寿命は60~70年、クジラは85年とされ、動物の中では長寿だ。一般に、体の大きなものは小さなものよりも寿命が長くなる傾向があるというので、恐竜の仲間だというゴジラは他の“普通”の恐竜よりも長生きするはずだ。

 恐竜の平均寿命は、残された骨から推定すると、小型の獣脚類で3~5年、初期の角竜で10年、ティラノサウルスなど大型の獣脚類で30年という。長いとはいえない一生だが、やはり大型ほど寿命が長い傾向がある。巨大なゴジラティラノサウルスなどより長寿でありそうな気がするが、放射能の影響を受けていることもあり、どれほど長生きかは分からない。

 そもそも怪獣の寿命が分かりにくい。本能のまま(?)に破壊しまくる怪獣は、元気なうちにヒーローに倒される。それが彼らの天寿ともいえるが、静かに暮らしていたならば、どれくらいの寿命があるのか誰も知らない。ゴジラ放射能火炎を吹くほどの飛び抜けた能力を持っているが、飛び抜けて長寿なのか、逆に短い生涯のうちにパワーを出し切るのか、どちらも考えられるから厄介だ。

 ゴジラは大活躍した。ゴジラが盛りを過ぎ、どこかで生きているとすれば、どんな“老後”を送っているのだろうか。擬人化してみれば、引退したスポーツ選手が現役時代を懐かしむように、「キングギドラは強かったなあ」とか「モスラはいい相棒だったなあ」とか言ってそうだ。人間の役者なら、主役を降りても、脇に回って渋い味を見せるという生き方があるが、それはゴジラには似合わない。