望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





高齢者ロッカー

 2014年のストーンズの来日公演では、当時70歳のミック・ジャガーが歌いながら、元気にステージを縦横に動き回り、センターステージからメインステージに戻る時にはスキップをしてみせたりした。ステージ評でも、そのことに触れたものが多く、70歳の高齢者がロックンロールを歌いながら、駆け回っているとの驚きを記していた。



 元気だったのはミック・ジャガーだけではない。バンドで最年長、当時72歳のチャーリー・ワッツのパワフルなドラミングも健在であり、現役ライブバンドとしてのストーンズの真価を発揮したステージだった。でも、ストーンズが来日公演するたびに「60歳を過ぎてもロックをやってる。凄い」というような見方がつきまとう。現役ロッカーが高齢者となるのは歴史的に初めてなので、やむを得ない面もあるが。



 70歳で現役であることは、実は音楽の世界では珍しくはない。米のジャズ界などで演奏を続けている高齢者プレーヤーは以前からいた。ただ、彼らはクラブなどで演奏を続けているケースが大半で、ミック・ジャガーのようにステージを駆け回る人はさすがにいない。というより、スタジアムクラスでの公演を続けている高齢者はいない。



 それを考えるとストーンズの並外れた集客力の凄さを実感するが、ストーンズには蓄積がある。数万人を集めるスタジアムクラスでの公演を各国で行うという世界ツアーをストーンズは繰り返してきた。つまり、高齢者が新たにロッカーになったのではなく、経験豊かなロッカーが高齢者になったのであり、そうした彼らが元気なら、ライブ活動を続けることに不思議はない。



 「ロックは若者の音楽」とのイメージがあるから、高齢者ロッカーに世間は感嘆するのかもしれないが、プレスリーがレコードデビューしたのは60年前。20世紀の初めに誕生したジャズでは、プレーヤーが高齢になっても現役を続けることが珍しくないように、ロックでも高齢者バンドが活動を続けることは普通のことと、そのうちに見られるようになるだろう。



 元気な高齢者はストーンズだけではない。日本にも大勢いる。例えば、農業就業人口は239万人だが、65歳以上が62%を占め、平均年齢は66.2歳になる。林業では約7万人の就業者のうち1.2万人が65歳以上。漁業では就業者は17.4万人(東北3県除く)で、65歳以上が6.4万人(同)となるなど、日本の第1次産業は元気な高齢者に支えられている。



 ちなみに高齢者の定義はまちまち。国連では高齢者を60歳以上とし、80歳以上を後期高齢者とする。WHOは65歳以上を高齢者とし、80歳以上を後期高齢者とする。日本の高齢者医療制度では、65歳~74歳を前期高齢者とし、75歳以上を後期高齢者とする。でも、年齢で高齢者に括られたとしても、「高齢者らしく」振る舞わなければならない……わけではない。高齢者でも、やりたいことをやり、駆け回っても構わないことをストーンズは示している。