望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





淑女と紳士よ


 東京ドームなど大きな会場でのコンサートでは、左右に広いステージを設営し、歌手らが動き回り、ステージ後方に大きなスクリーンを設置し、歌手や演奏しているメンバーのアップの映像を映す……こんなコンサートは今では珍しくないが、最初に目にしたのはMジャガーのソロコンサートであったように記憶する。



 Mジャガーのソロコンサートから数年してRストーンズの日本公演が実現したが、巨大なステージセットに、巨大スクリーンやバルーン人形なども登場する大掛かりなショーだった。全米ツアーから始めて、南米、アジア、欧州とステージセットを持ち運びするのだから、ご苦労様です。



 その後もRストーンズは何回も来日コンサートを行い、1万人クラスの会場でのコンサートも織り込みながらも、基本的にはスタジアムクラスの大掛かりなショーが中心だった。高騰する入場料に見合ったショーにする必要があるのだろうし、PAも改良され、演奏がメインだったので不満はなかったが、シンプルなステージを見たいとの思いは残った。



 Rストーンズにもそうした思いはあったらしく、ショーの途中に、アリーナ中央での小さなステージでの演奏を組み込むようになった。Mジャガーが歌い、バンドが演奏するだけの数曲は、会場が最も盛り上がる。こうなるとファンは、Mジャガーが走り回らなくてもいいから、昔風の狭いステージで演奏するストーンズを見てみたい……なんて思うようになる。



 そうしたファンの願いを幾分か満足させるDVDが2010年に発売された「LADIES & GENTLEMEN」だ。1972年の北米ツアーから15曲が収録され、70年代初期のRストーンズのスタジオリハーサルも収録されている。



 当時のツアーでは大掛かりな仕掛けはなく、ステージ後方のスクリーンもなし。ステージは狭く、ギターやベースはシールドでアンプにつながっているので、Mジャガーもあまり動かない。そう、演奏・音楽しか見せるものがない状況で、ストーンズは、骨太な演奏をしてみせるのだ。



 Kリチャーズが天職だとばかりにリズムを刻み、Mテイラーが達者なソロを弾き、フリルのついた衣装のCワッツは忙しそうだが、Bワイマンはステージ前方で客席を眺めながらベースを弾き、Mジャガーは歌い、叫ぶ。バックボーカルはおらず、Kリチャーズが担当する。



 「ハッピー」のリフレイン部分をMジャガーが担当して後半はメインをとったり、Mジャガーが歌っている曲でマイクに横からKリチャーズが近寄ってコーラスを入れたり、曲の合間にギターのチューニングを合わせたり、Mテイラーが銀ラメのベロマークがついたシャツを着ていたり、Bキーズがタンバリンを担当したり……ファンならニヤッとする場面の連続だ。