望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ブラウン・シュガー

 ローリング・ストンーズは2021年に北米などでツアーを行ったが、そこで彼らの代表的なヒット曲の一つである「ブラウン・シュガー」が演奏曲目から外されたことが話題になった。奴隷に関する歌詞や黒人女性を性的対象にする歌詞が批判されてきたが、そうした批判に対応した判断だと受け止められた。

 MJは1995年に、歌詞が問題になるなんて「思いもしなかった」が「今なら絶対にあの曲は書かない」「自己検閲して『ああ無理だ』と思うだろう」と述べ、歌詞に対する批判を認識していた。「ブラウン・シュガー」を外したことについて「自分たちの挑発に多くの人が過剰反応することになった」としつつ、変化しなければいけないことを受け入れていると述べたそうだ。

 歌詞は、奴隷船や奴隷商人、ニューオーリンズの市場、女奴隷にムチ打つーなどの言葉を散りばめ、「ブラウン・シュガー、どうしてこんなにうまいんだ?」と繰り返す。ブラウン・シュガーは精製されていないヘロインを指す俗語でもあるので、麻薬讃歌の曲との受け止めもあるが、それについてローリング・ストーンズ側は触れていない。

 かつてのローリング・ストーンズは時代に衝撃を与え、挑発する存在であったとMJは述べた。当時のローリング・ストーンズは反抗的とのイメージを漂わせ、良識に背を向けるポーズを辞さなかった。だが、時代の変化とともに当時の価値観と現代の価値観にはズレが生じ、笑って済まされたような文言も厳しく批判される時代となり、奴隷制や黒人蔑視などは全否定すべき対象となった。

 「ブラウン・シュガー」はロック史に残る名曲だ。米国の黒人音楽の強い影響の中にあるローリング・ストーンズに黒人蔑視があるはずはなく、「ブラウン・シュガー」の歌詞は当時の公序良俗を揶揄する反抗的なポーズの結果だろう。だが、ロック音楽が巨大ビジネスになり、ローリング・ストーンズが世界ブランドになり、メンバーがセレブ扱いされる時代となっては、かつての反抗的ポーズは重荷になったか。

 世界ブランドになった今のローリング・ストーンズには世間の公序良俗に抗って歌うエネルギーがなくなった。ローリング・ストーンズが世間に負けたと見ることもできる。「ブラウン・シュガー」を演奏曲目から外したのは、現代という時代に適応(迎合?)したとも、年老いたメンバーに時代の風潮に抗うエネルギーがなくなった表れとも解釈できる。

 かつてローリング・ストーンズは中国公演を実現するために中国当局からの規制を受け入れ、セットリストから数曲を外した前歴がある。反抗的ポーズがビジネスになった時代は過ぎ去り、「正しく」あることを装うことがビジネスに求められる現代に、世界ブランドで巨大ビジネスとなったローリング・ストーンズも合わせる。