望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

シャイン・ア・ライト

 「ア・ビガー・バン・ツアー」中のストーンズが、06年の10/29、11/1にNYのビーコン・シアターで行ったコンサートを記録したのが映画「シャイン・ア・ライト」だ。監督はマーティン・スコセッシストーンズのライブ映像がメーンなのだが、成功を収めた還暦を過ぎた連中が、ライブでロックを演奏し続ける意味(意義)が伝わって来る映画になっている。



 同ツアーは東京ドームなどでは巨大なセットをステージ上に組み立てていたが、キャパ3千人以下というビーコン・シアターではクラシカルな特別セット。撮影用に18台のカメラを設置したという。演奏が始まると、細かなカット割りで映像をつなぐ。これはいい絵だなと思う映像が続き、「さすがストーンズ・ファンのスコセッシ、分かってるんじゃないの」と言いたくなる。



 ストーンズには名曲が数多く、曲によって、ここはKRのギター、ここはMJなどと“見所”がいろいろある。スコセッシがセットリストを早く入手したがったのは、事前にカメラ割りを決めたかったのだろう。しかし、セットリストは直前にしか来ない。これが即本番というライブ感をかもし出した。



 ライブ感といえば、ステージ中央に“デベソ”があり、その左右の観客席の中にいるカメラマンが、いい映像を撮った。ステージのメンバーを追う映像の中に観客の頭部や上げた腕が入って来る。ライブ目線というか、アリーナ席でステージを見ている感覚にさせる。



 サウンドもクリアだ。先に発売されていたCDでもベースをはじめとして音がクリアに入っており、「KRが映画パイレーツの撮影に行き、ミックスの時に不在だったから音がクリアになった」などとウワサされたが、上映劇場では東京ドームより、もっといい音でストーンズの演奏を楽しむことができる。DJのベースはうまいなと実感できます。



 効果的だったのがライティング。ステージ前部の客席がやけに明るかったが、ステージ後方上部から強いライトがあてられていた。そのライトが、客席に背を向けCWのほうを向いたメンバーを明るく照らすとともに、ステージで動き回るメンバーの輪郭を客席から見て縁取りするように浮かび上がらせていた。いい映像を撮るための映画的技法なのだろうし、客席の盛り上がりぶりもよく見えたのだが、熱も相当だったらしく、終盤にMJがステージで「ライトでケツが熱い」と叫ぶ。



 様々な映画評が出たが、「MJの動きが若々しい」「MJがスリム」「60を超える男達のパワーに圧倒された」などコンサート評と区別がつかないものも目についた。おそらく最近のストーンズを初めて見たのだろう。東京ドームなどではMJは、ステージ左右に延びる長い“ソデ”を駆け回っていた。それに比べるとビーコン・シアターのステージは「狭い」のでMJにとっては、体力的には楽勝だっただろう。



 「ライブでロックを演奏し続ける意味(意義)が伝わって来る」と書いた。もっと上手なバンドは多いだろうし、高度な音楽性を追究している人たちもいるだろう。けれど、ロックの核にあるものはシンプルだ。それは精神の躍動。それをストーンズは発散している。KRはもはや名人芸の世界だし、ストーンズというバンドは時折すごいグルーブを生み出すことが映画を見ていても伝わる。ストーンズがいなければロックは違ったものになっていただろうし、ストーンズがなおロックの前衛の位置にあることがよく理解できる映画なのである。