望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





人生50年


 第二次大戦後の第1次ベビーブームの1947~1949年に生まれた人々は「団塊の世代」と呼ばれる。消費動向など社会的に大きな影響を与えてきた団塊の世代だが、2012年以降に65歳に達し始めた。会社勤めの多くの人は定年退職を迎え、高齢化社会をいっそう促進することにもなる。



 団塊の世代を対象に内閣府が行った調査(2012年)によると、25.1%が「働けるうちはいつまでも」働きたいとし、「70歳 まで」が21.3%、「75歳まで」3.7%で半数が働き続けたいと望んでいる。生活に対する満足度は、「非常に満足」12.5%、「ある程度満足」67.0%で計79.5%と高い。行政に要望する注力すべき高齢者対策は、「介護や福祉サービス」68.4%、「医療サービス」60.3%、「公的な年金制度」58.3%、「働く場の確保」15.6%の順。



 高齢社会白書(2013年)によると、世帯の主な収入源は「年金」が最も多く53.4%。世帯年収は「240万~300万円」が17.3%、「300万~360万円」14.0%、「360万~480万円」14.0%、「480万円以上」18.8%、「120万円未満(収入なしを含む)」8.3%。世帯の貯蓄額は「1000万~2000万円」が15.0%、「100万円未満」9.8%、「2000万~3000万円」9.7%、「700万~1000万円」9.5%。



 こうした調査から大まかな傾向はうかがえるが、団塊の世代の実態は曖昧だ。当たり前だが、65年の間に個人差が相当に生じており、例えば、世帯収入が少ない場合は、蓄えが十分にあって積極的には働こうとしないケースもあれば、生活を維持するために低収入の仕事でもつかざるを得ないケースもある。



 65年生きてきた団塊の世代で、優雅な隠居生活に移行する人々がどれくらいいるのか分からないが、現在では65歳は老け込む年齢ではない。日本人の平均寿命(2012年)は女性86.41歳、男性79.94歳なので、15~20年ほどの余生がある。無為に過ごすには長過ぎようが、かといって年齢的な衰えも始まり、20代の若者と同じように人生を新たに切り開くことは難しかろう。



 テレビドラマなどで織田信長が描かれると、必ずといっていいほど登場するのが、「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」の謡曲で舞うシーンだ。織田信長は48歳の時に本能寺で死んだ。まさしく「人生50年」と、天下を取って、日本の歴史に名を刻んで輝いて生きたわけだが、当時と比べて寿命が長くなった現在、団塊の世代の人々は、人生65年のあとを長く生きる。



 寿命が長くなって、第2、第3の人生を楽しむことができるならば、それもまた一興。しかし、人生50年が夢幻の如くであるとしたならば、人生80年も同様だろう。天下を取っても取らなくても、長くても短くても人生は「下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」か。