望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

専門家の将来予測

 新型コロナウイルスの感染拡大の第9波が起き、第8波よりも規模が大きくなる可能性があると厚労省にコロナ対策を助言する専門家の有志が4月に見解を示した。その根拠は詳らかではないが、報道によると、▽流行は続く、▽自然感染による抗体保有率が低い、▽感染しやすいオミクロン株のXBB系統の割合が増えた、▽ワクチンの発症や重症化を防ぐ効果が薄れてくるーなどが挙げられた。

 4月の時点で、いずれ第9波が起きるとの見解は将来予測だ。将来予測を行う科学者は珍しくないが、その将来予測に客観性が欠けていると、それは占い師や予言師の言葉と同列になる。科学者の将来予測には確率が不可欠で、確率を検証することで将来予測の妥当性を確かめることができる。

 第9波が起きるという専門家の見解(将来予測)には、報道で見る限り確率は示されていない。確率が欠如した科学者による将来予測は主観である。当たることもあれば外れることもある。第8波まで感染拡大は周期的に起きたのだから、ウイルスが消滅したことが確認できず、特効薬が不在であるから、第9波が起きると予測するのは素人でもできることだ。

 専門家が第9波が起きると予測したのは、おそらく感染症法上の位置付けが「5類」に変更されて人々の警戒心が徐々に薄れることを懸念して注意喚起する目的だったのだろう。だが、3密回避やマスク着用やワクチン接種など従前の対策を人々が励行していても感染拡大の波は繰り返し起きたのだから、専門家が推奨する従前の対策を行っても第9波は起きるかもしれない。

 これは過去の感染拡大の波に専門家が無力であったし、第9波についても専門家は無力であることを意味する。なぜ感染拡大の波は繰り返し起き、その感染拡大の波はなぜ一定期間で終息したのか、専門家は明確な説明を行っていない。日本より先に厳しい行動制限などを撤廃した諸外国の感染状況のデータを検証して「5類」移行後の感染状況を予測することも行っていないようだ。

 ある専門家の見解を検証するのは他の専門家であるが、マスメディアにも専門家の見解を検証する役割があるはずだ。専門家の見解をそのまま伝えるのがマスメディアの実態のようだが、そこには批判精神が欠如している。とはいえ、専門家の見解を検証するには専門知識が必要で、様々な出来事を日々追う報道記者には荷が重いのも確かだ。

 専門家による確率が欠如した将来予測を、人々は科学的な事実と誤認しやすい。まだ起きていないことは事実ではないのだが、専門家が言うのだからと将来予測を確定した事実であるかのように信じる。第9波が起きるかもしれないと多くの人が感じているところへ、専門家に第9波が起きる可能性があるなどと言われると、うっかり信じてしまう。だから人々はマスク着用を続けているのかな。