望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

温暖化の恩恵

 今年は全国で桜の開花が早い。例えば、沖縄以外で最も早かった東京の開花は3月14日で平年比10日早く、各地も大分、熊本などを除いて平年より早い(4月4日現在)。平年比10日以上早いところも多く、盛岡は平年比15日早く、長野と福島は平年比14日早い。平年は4月に入ってから開花する北陸や東北は、全地点で10日以上早く3月に開花するなど雪国での早い開花が目立っている。

 桜の花の芽は冬の初めに休眠に入るが、真冬の寒さに一定期間さらされると目を覚まして(休眠打破)、成長を始め、春に開花する。開花予想には2月1日からの毎日の最高気温の累計を使う。その累計が400°Cに達したころに桜が開花するという見方と、600°Cになるころに桜が開花するという見方に分かれるが、冬が寒くて春先に暖かいことが、桜が早く咲く条件(水資源機構HP)。

 今年は北海道では雪解けも早かった。札幌では3月20日に積雪0cmと発表され、昨年の4月5日よりも2週間以上も早かった。3月に入ってから降雪がめっきり減って、雪解けが進んだ。1月と2月の平均気温は昨年より低かったが、3月の平均気温は4.9°Cで観測史上最高だった(昨年は2.6°C)。3月の暖かさで北海道各地で雪解けが急速に進んだ。

 桜の開花が早いのも北国で雪解けが早いのも、気温上昇に関係があると素人でも類推できるが、多くの人々は桜の開花や雪解けを喜ぶだけで、気候変動と結びつけて温暖化を憂う声はほとんど報じられず、春の到来を喜ぶ声が圧倒的だった。今年の日本における早い気温上昇が気候変動の現れなのか、周期的な変動なのか、判断は難しい。

 温暖化が気象災害などと関係するときには、気候変動を憂う声が多く現れ、マスメディアは温暖化の危機を強調する。だが、温暖化が気象災害を伴わず、例えば、桜の開花を喜ぶなど春の到来を喜び、寒い冬の終了を喜ぶだけの時には温暖化論議は現れない。気象災害は悪い温暖化の影響だが、桜の開花や雪解けが早いことは良い温暖化の影響として問題視されない?

 春が早いことを喜ぶ一方 温暖化の影響で冬が短くなることを懸念する声が人々から聞こえて来ないのは、「温暖化は悪いもの」との意識が植え付けられたからだろう。桜の開花を喜ぶことを「悪い」と意識するのは困難なので温暖化論議はフタをされて浮上しない。厳しい冬が短くなることを人々は歓迎するだろうが、良い温暖化の影響と認めることに躊躇し、温暖化論議に触れずに済ます。

 気候変動についての議論は、「悪いもの」との認識が根底に据えられて展開され、人々も温暖化は悪いもので日常生活を脅かすものとして意識づけられた。そのため、桜の開花や雪解けが早く、春の到来を感じてウキウキした気持ちになった人々は、面倒な温暖化論議など忘れて、春の早い到来を喜ぶ。梅雨期の大雨や夏の台風・猛暑、秋の集中豪雨などに見舞われた時に人々はまた憂い顔で温暖化を問題視してみせるのだろう。