望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

温暖化論議と神の不在

 温暖化により地球環境が危機に瀕しているとの不安が、世界規模で広がっていると内外の報道からは受け取れる。この危機には科学的な裏付けがあるとされ、反対したり異論を主張する人々は、まるで異端者のように攻撃されたりしている。温暖化の危機が絶対的な真理とされたような光景だ。

 温暖化対策の様々な仕組みを「国際標準」にするため欧州が頑張り、欧州メディアの世界的な影響力もあって、人為的な温暖化の進行を止めるために人類は協力して対策を取らねばならないとの国際世論が形成されたかに見える。ローマ教皇も2019年、世界は気候の緊急事態にあるとし、温暖化対策と化石燃料使用削減に向け「劇的な措置」を講じるよう各国政府に求めるメッセージを発表した。

 そのローマ教皇を含む世界の宗教指導者がバチカンに集まって10月に会議を開いた。参加したのはカトリック東方正教会英国国教会を含むキリスト教諸教会、イスラム教(スンニ派シーア派)、ユダヤ教ヒンズー教シーク教、仏教、儒教道教ゾロアスター教ジャイナ教など。2月から会議を重ねて作成した共同アピールに署名し、公表した。

 COP26に向けた共同アピールは報道によると、「生態系危機」から地球を救うために具体的な解決法を打ち出すよう呼び掛け、▽CO2実質排出量ゼロの早い達成▽地球全体の平均気温上昇を1.5度までに抑える▽豊かな国や大きな責任を負う国は気候変動対策を強化する▽弱い立場にある国に財政支援を行う▽各国政府は目標を高く持ち、国際協力を強化するーなどを提言した。

 この会議の名称は「信仰と科学、COP26に向けて」。宗教者が集まったのだから「生態系危機」に対して信仰のあり方を問う会議にしてもよさそうだったが、実際は、現代では信仰が科学に従っていることが示された。温暖化の危機なるものには信仰が無力だと自覚しているらしく、「世界の信仰者が皆で祈って温暖化の危機を食い止めよう」などのメッセージは見当たらない。

 絶対的な神の存在を信じる一神教であれば、この世界を創造して支配している神は、人間が引き起こしたという温暖化の危機を解消することは容易だろう。しかし、一神教の指導者らも今回の会議で、神に向けたメッセージではなく各国政府などに早急な対策を講じるように求めた。温暖化の危機は、神から与えられた試練とも解釈できようが、宗教的に解釈することをせず、このメッセージは神の不在を強調したように見える。

 西洋文化圏ではキリスト教、中近東などではイスラム教など宗教は信仰にとどまらず社会的に大きな影響力を持つ。そうした宗教が温暖化の危機に、信仰の力をアピールすることもできず、科学的な主張に従って思考するしかできないことをさらけ出した。どうやら、人々が「祈っても救われない」のが温暖化の危機なるものらしい。