望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

何でも異常気象

 ドイツ西部やベルギーなどで7月14〜15日に24時間の総雨量が100~150ミリという集中豪雨があり、河川が氾濫して洪水が発生した。確認されている死者はドイツで160人、ベルギーで31人だが、多数の行方不明者がいると見られている。欧州で大規模な洪水の被害が発生するのは2000年以降で4度目という。

 停滞する低気圧が今回の集中豪雨をもたらしたと報じられ、現地メディアは、春に降った大雨で土壌が大量の水分を含み、今回の集中豪雨の水分を十分に吸収できず、河川に大量に流れ込んだと伝えたそうだ。春に降った大雨の水分を夏になっても含み続ける土壌とは、よっぽど珍しい土壌だな。

 ドイツの被災州の首相は「100年ぶりの気象災害だ」と述べ、独政府のメルケル首相は「衝撃を受けている」と気候変動対策を急ぐ考えを示し、内相は「この惨事が気候変動に関係していることを疑うことはできない」と語り、欧州委員長は「気候変動の明らかな兆候だ。早急に行動すべきだ」と温暖化対策の重要性を訴えた。今回の集中豪雨でドイツにおける気候変動に対する危機意識が一層強まることは間違いないだろう。
 
 気候変動の危機なるものをドイツなど欧州は、経済構造を変えて世界における主導権を確保するために戦略的に活用する。EUが発表した温暖化ガスの大幅削減に向けた包括案では①内燃機関車の新車販売について2035年に事実上禁止、②環境規制の緩い国からの輸入品に関税をかける国境炭素調整措置(=炭素税)を23年に導入ーなどを打ち出した。

 今回の洪水被害は、まさしく気候変動による危機の現れであるとドイツも欧州もアピールする。住民への危険周知が遅れたとか洪水被害に対する事前の備えが足りなかったなどの批判を気候変動を言い立てることでドイツ政府などはうやむやにできるだろうし、気候変動に対応する新たな経済構造への移行を強制することでEUは主導権を確保できる。

 だが、今回の集中豪雨が気候変動によるものなのか科学的な検証は簡単ではない。24時間の総雨量が100~150ミリという集中豪雨は昔から世界のどこかで毎年、発生する(日本では梅雨末期や台風襲来時などに毎年起きる)。そうした集中豪雨の、どれが気候変動によるもので、どれが通常の気象現象に含まれるものか、判別することは研究者にも簡単ではないだろう。

 原因は気候変動による異常気象だとしておけという判断停止は、気候変動の危機を感じる人々と気候変動を利用しようとする人々に共通する。大雨も猛暑も旱魃も台風なども何でも異常気象だとして、気候変動が原因だとする判断停止が欧州をはじめ世界に広がる。例えば、今回の欧州西部の集中豪雨がどんなメカニズムで発生したのか具体的な説明を求めるなら、気候変動論に飛びつかなくても冷静に解釈できるだろう。