望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ラーメンと「物語」

 ラーメンの人気は根強い。TVや雑誌では定期的に特番やら特集が組まれる。一時は「背脂チャッチャ」が大人気だった。トンコツベースの濃厚な味は以前からあったが、醤油ベースの濃厚な味が目新しかったようだ。味がくどい、飽きるとの声もあるが、流行り廃れは世の習い、そのうち新しい味の流行が生まれる。

 といっても、次はあっさり系だ、昔風の東京ラーメンかタンメン系が流行ると考えるのは早計。単なる昔の味のリバイバルでは見向きもされまい。また、コクのある味になれた舌には、あっさりといってもそこそこのコクは求められよう。そこで、あっさり系だが、後味さっぱりの、しつこくないコクのある味が求められる。

 ラーメン専門店が増えているのは、ラーメン人気もさることながら、技術的に参入しやすく、また、儲かる商売だからだ。TVなどで店主が能書きたれて「最高級の材料を使っている」などと言っても、その金額はたかが知れている。本当に最高級の材料を使っていたとしても原価率は3割程度だとか。それを1杯七、八百円、時には千円以上で売っているのだから大儲けである。

 ラーメンは値下げ競争に巻き込まれない。それは、客がラーメンに「物語」を求めているからである。一念発起をして脱サラをした店主が、全国のラーメン店を「食べ歩き」し、「こだわり」をもって「最高級」の材料を使って「早朝」から仕込みをして「作った」味……。そうした「物語」としてのラーメンを行列までして食べに行く。そんな客に今のラーメン人気は支えられている。

 その「物語」を外してしまえば、価格競争はラーメンにも及ぶ。値下げできる余地は十二分にあるのだから。もちろん、味のレベルダウンなし、でである。半額にしても儲けを減らさないためには回転率アップが必要。そうなると流行りそうなのは、味は今のラーメン専門店と同じようにうまくて、価格は半額の立ち食いスタイルのラーメン屋か。立ち食いといっても、おしゃれな女性客も気兼ねせずに入ることが出来る店舗設計で、軽食としてのラーメンを出す店である。