望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

人生はジグソーパズル

 ある友人は「人生はジグソーパズルだ」と主張する。「1日を生きると、その日のピースが出来あがる。毎日の様々な色をした膨大なピースが組み合わされて、大きな絵となる。その絵は、その人の人生が描かれた作品だ」とする。生きている間は毎日、ピースが加え続けられ、死とともに個人のジグソーパズルは完成すると言う。

 友人の説によると、ピースは正方形の形だが、色合いは人によって日によって多彩に変化し、同じものは2つとなく、大きさは人によって日によって異なり、大小の差は大きいという。何か大きな出来事があったり、印象に残る何かがあった日のピースは大きくなり、平穏な1日で、すぐに忘れられるような日のピースは小さい。

 何も起きず単調な毎日の繰り返しであっても、ピースは同じ色にはならない。天候は変化し、季節も変化するので人が見る風景は都会であっても毎日変化しており、日本や世界で様々な出来事が毎日報じられ、それらの情報を人は様々に受け取り、関心を持ったり記憶するので、その日のピースの色合いは変わってくる。

 完成したジグソーパズルは人によって多彩な形になる。全体が長方形や正方形など規則性がある形になることはほぼなく、ある部分は突き出し、ある部分はへこむなど人の数だけ形が変化する。大小様々なピースが連なり、外周は凸凹とした線の不規則なジグソーパズルが出来あがる。同じ形がないのは、同じ人生を送る人がいないためだ。

 生まれた日にその人の最初の1つのピースが出来あがり、その後は毎日、1つずつピースが加わる。ピースは正方形なので、形成されつつあるジグソーパズルのどこに加えられてもよいが、どこにピースが付け加えられるかは人によって日によって異なる。同じような色のピースでも接続する場所が異なれば絵の表現は変わってくる。

 「あの時に、ああすれば自分の人生は変わっていた」などと人は回顧して夢想するが、毎日のピースが加えられて形成され続けるジグソーパズルから過去のピースを取り外すことはできない。最初のピースが置かれて、完成形がどうなるか無限の可能性の中から人は毎日、1つずつピースを加えて、それぞれのジグソーパズルを完成させるのだ。

 最後の日のピースが加えられて完成する人生のジグソーパズル。「俺のジグソーパズルがどんなものか見てみたいな。上下左右にバランスが取れた人生ではなかったから、俺のジグソーパズルはきっと歪な形だ」と友人。「好きなことだけやって生きてきたように他人には見えるだろうけど、俺なりに筋を通して生きてきたんだから、色調は整っているはずだ」と言う。