望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

21世紀の治水

 治山治水とは「山を治め、水を治める」こと。山を治めるためには植林のほか水源林や保安林の整備、地すべりを防ぐ地盤改良、砂防ダム設置などが行われ、水を治めるためには堤防の整備のほか、河川改修、水路整備、治水ダム建設、調整池や遊水池や放水路の整備などが行われる。都市における治水事業では排水路の整備や透水性舗装、雨水貯留施設や地下河川の整備などが行われる。

 雨が多い日本で水害被害は繰り返されてきた。「2021年の日本の降水量の基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの偏差はプラス213.4mm」で、「年降水量には長期変化傾向は見られない」が「1898年の統計開始から1920年代半ばまでと1950年代、2010年代以降に多雨期」があり、1970年代〜2000年代は年ごとの増減の変動が比較的大きくなっていた(気象庁サイト)。

 2010年以降は平均値より降水量が毎年増えている。だが、1950年代も毎年増えていて1960年以降は減少傾向になったので、多雨傾向がこの先も続くか、減少に転じるかは不明だ。また、世界の年間降水量は周期的な変動を繰り返しているが、北半球では1950年代、2000年代半ば以降に降水量の多い時期が現れている(同)。

 2022年の夏には北陸や東北、北海道などで豪雨被害が続いた。氾濫した河川や浸水被害の住宅などをニュース映像で目にすると、豪雨による水害被害が顕著に増えたとの印象を持ち、日本の治水対策が増加する降雨量に対応できておらず、綻び始めたと考える人もいるだろう。その地域の「平年の8月の降雨量が半日で降った」などと報道されると、急いで新たな治水対策を講じなければならないと考えるのは自然だ。

 日本の治水対策は、「気候変動に伴い頻発・激甚化する水害・土砂災害等に対し、防災・減災が主流となる社会」を目指し、流域治水の考え方に基づいて「堤防整備、ダム建設・再生などの対策を一層加速するとともに、集水域から氾濫域にわたる流域のあらゆる関係者で水災害対策を推進」することになっている(国交省サイト)。過去の降雨データなどに基づく対策から気候変動による降雨量などの増加を考慮した対策に転換した。

 流域治水とは「集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方」(同)で、総合的かつ多層的な対策だという。だが、2020年から掲げられた構想で、その成果が発揮されるのは、法改正や地方自治体などとの協議・協力体制が構築されてからであり、かなり先になりそうだ。

 梅雨末期や台風シーズンなどに西日本などで水害被害が各地で毎年頻発し、有効に治水ができていないと見える中で、東日本や北日本でも水害被害が相次ぎ始めた。流域治水は間に合わなかった。治山治水は国の礎とも言われるが、まったく後手後手の状況で、流域治水の考え方が正しかったとしても、その効果が現れる頃には、「気候変動に伴い頻発・激甚化する水害・土砂災害等」がさらに増えているかもしれない。