望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

人間との共生

 こんなコラムを2004年の秋に書いていました。

クマ「今年の夏は暑かった。すっかりバテていたところに、台風が相次いで日本列島を直撃。暴風雨で山の中もめちゃくちゃになった。木の実は落ちるし、果実も落ちるしで、冬眠を前に、どうしたらいいんだ? 冬眠に備えて栄養を貯える前に、今、腹がへっているんだ。温暖化? そんなことを議論していても、空腹の前には意味がない」

シカ「事情は解るけど、お前さん、最近は評判が悪いぞ。人間の前に現れすぎだ。いくら腹がへっているとしても、人間を襲っちゃ駄目だよ」

クマ「食い詰めた奴らのやったことだとはいっても、同じクマとして、確かにまずいと感じているよ。ただ、悲しいなあ。あいつらだって、人間のところに行きたくて行ったわけではないんだ。食うものがなくなって、見境がなくなってしまったんだ。人間なら、飢え死にする前に、パンを盗んででも生きようとするだろうし、盗みを見つかって刑務所に入れられても生き延びることはできる。クマには刑務所もない。ただ撃たれるだけだ」

シカ「俺たちだって、増えすぎたからと撃たれる運命だ。自然保護だの、自然との調和だのと人間は綺麗事を言うが、ちょっと人間の生活に支障が出ると駆除される。人間の言う自然保護なんて言葉に騙されてはいけない」

クマ「人間の言う自然とは、快適性と結びついたもののことさ。自然は過酷なものであるのに、人間に都合のいい部分だけを自然として尊重するのさ」

シカ「こうなりゃおれたちも自衛策を考えなきゃならん」

クマ「しかし、人間と出合わずに暮らそうとしても、人間たちがどんどん俺たちの方に近寄って来る。山裾を住宅地にし、レジャーだ、山菜採りだと山の奥にも入って来るんだ」

シカ「こうなりゃ俺たちも人間との共生を真剣に考えなければならないな。いっそ、窮鳥ふところに入るの伝で、人間にこっちから近付けば、大切にしてくれるかもしれない」

クマ「俺たちは駄目だ。仲良くしようと人間に近付いたなら、また現れたと猟友会が出て来る。どうだろう、君たちシカは増え過ぎているんだから、僕らに食べられてくれないか? それが循環型の自然というもので、人間にとっても好都合だ」

シカ「捕まえられれば食べられるのも仕方がないけど、僕達は食べる物は食べて元気があるから、君たちに捕まえられるかなあ」

クマ「自然は過酷で不公平だ。シカの縫いぐるみよりもクマの縫いぐるみの方が人気があるのに、現実には人間と共生できない。いっそ、山を高いサクで囲って分離して欲しい。人間相手にパレスチナイスラエルが壁を築いて分断しているように」