望潮亭通信

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死刑制度

 世界で死刑を事実上廃止した国は144で、存置国は55という(2020年、アムネスティ調べ)。事実上廃止した144カ国の内訳は、すべての犯罪に対して廃止が108カ国、通常犯罪のみ廃止が8カ国、事実上の廃止が2カ国。世界での死刑執行件数は18カ国で483件以上(中国と北朝鮮は件数不明)。死刑執行が多い上位5カ国は中国、イラン、エジプト、イラクサウジアラビアと推定。

 死刑制度が存続している日本でも死刑制度の廃止を求める声はあるが、多数とはなっていないようだ。内閣府の死刑制度についての世論調査(2019年)によると、「死刑は廃止すべき」9.0%、「死刑もやむを得ない」80.8%で約9割が死刑制度を容認している(「わからない・一概に言えない」10.2%)。この種の調査は設問次第で調査結果を誘導することができることを勘案すべきだが、死刑容認が多数であることは確かそうだ。

 「死刑もやむを得ない」理由は、56.6%の人が「死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」、53.6%は「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」を挙げた(重複回答)。厳しく罰するべきだと見ている。だから「将来も死刑を廃止しない」54.4%と過半数。だが、「状況が変われば死刑を廃止してもよい」39.9%と4割になるので、死刑制度が盤石の支持を得ているとはいえない。

 一方、「死刑は廃止すべき」理由は、50.7%の人が「裁判に誤りがあったとき、死刑にしてしまうと取り返しがつかない」、42.3%が「生かしておいて罪の償いをさせた方がよい」、32.4%が「死刑を廃止しても凶悪な犯罪が増加するとは思わない」、31.7%が「人を殺すことは刑罰であっても人道に反し、野蛮」、31.0%が「国家であっても人を殺すことは許されない」、28.2%が「凶悪な犯罪を犯した者でも更生の可能性がある」(重複回答)。

 加害者に犯した罪に相応する処罰を求める感情は自然なものだろうが、世界では国家が体制に抗う人々を処刑してきた歴史があるので、国家による処刑=死刑制度に対して懐疑的な人々が増え、死刑制度を廃止・凍結する国々が増えた。さらに、検察(国家)が都合よく誘導して死刑に持ち込むなど裁判には誤審がつきものなので、死刑が執行されることに対する警戒感も高まった。

 死刑執行された人間は生き返らないので死刑執行には慎重であるべきだ。だが、残虐な殺人を犯した人物に対する社会の処罰感情が根強い国や、被害者や家族らによる報復感情が尊重される国で死刑制度が存続しているように見える。さらに強権国家では国家反逆罪を独裁統治に活用するので、死刑が増える。

 死刑制度を考えるときには善悪の感情に左右されやすいが、善悪の感情を抜きに死刑制度を考えることは難しい。例えば、効率を最重視すると、刑務所に多人数を長期間閉じ込めておくのは莫大なコストがかかるので、死刑制度により受刑者数を減らしたほうがいいとなる。そうした考えの行き着く先は、ナチスユダヤ人大量虐殺になる。

 死刑制度を廃止すれば最高刑は釈放なしの無期懲役になる。社会から隔離(排除)されることでは死刑と同じだが、無期懲役になった受刑者が必ず反省し、更生するとは限らない。むしろ釈放されることがないと開き直る可能性もある。死刑か無期懲役か、合理的に判断することは簡単ではなく、やはり善悪の感情が大きく影響しそうだ。