望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

自己判断で追従

 英国でエリザベス女王の在位70年を祝う行事が先日行われたが、パレードなどを見る沿道の人々を映したニュース映像ではマスク着用者は皆無だった。英国は1月に規制の大半を撤廃し、マスク着用は法的義務ではなくなっていた。英国では、法的義務であった頃もマスクを着用しない人が多かったといわれ、マスクは嫌われていた。

 日本でマスク着用は法的義務ではないが、気温も湿度も高い夏を迎えて政府は「基本的な感染対策としてのマスク着用の位置づけは変更しない」が、熱中症予防のため「屋外ではマスクをはずしましょう」(厚労省サイト)と呼びかけ始めた。どんな時にマスクをはずしていいのか判断に困る人が多いと政府は見ているらしく、細かく「マスクをはずしていい」状況を具体的に例示している。

 政府は「屋外ではマスクをはずしましょう」と言っているのだが、まだ、歩いている人の大半はマスクを着用している。東京の繁華街など路上に人が密集している3密の状況ならば、感染予防のためのマスク着用に合理性はあろうが、人影がまばらな道を歩く人の大半もマスクを着用している。過疎化が進む地方都市などでも、歩く人の大半はまだマスクを着用しているようだ。

 日本で人々がマスク着用を続けるのはなぜか。その理由として、第一に日本人はマスクが好きだから着用を続ける、第二に周囲からの批判の目を恐れる(同調圧力に迎合する)、第三にマスク着用者が多いので大勢に合わせる、第四に新型コロナウイルスに対して過大な恐怖心を維持している、第五に政府の方針に反対する意思表示?ーなどが推察される。日本ではマスク着用に忌避感が乏しいことが影響しているのは確かだ。

 気温も湿度も高い夏を迎えて、マスクの常時着用の負担が増す状況になった。複数回のワクチン接種が進み、感染拡大の勢いが衰えているが、人々はマスク着用を続け、息苦しさに耐えている。これは、マスク着用を人々が選択していることを示す。パンデミックが始まって、人々は政府の指示(強制ではない)に従ってマスク着用を受け入れたが、それは人々が自発的に選択したマスク着用である。

 マスク着用を個人が判断すると、英国などでは人々がマスクを着用しなくなり、日本では大半がマスク着用を続ける。日本では人々が政府の指示に従順だと見えるが、常に政府の指示に人々が従順であるはずもないから、政府の指示に従順なように見えているのは、マスク着用が一般化した結果だ(政府の指示に従順な人々も多いだろうが、その割合は不明だ)。

 個人の自由意思による判断が尊重される社会で、政府の施策や方針を個人が是と判断して共有することも、批判して拒否することもある。前者の場合は、個人の判断の結果として政府の政策や方針に追従しているように見える。だが、「屋外ではマスクをはずしましょう」との政府の方針に人々が同調せず、マスク着用を続けている光景は、個人の判断が政府の方針よりも優先されることを示している。