望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

告発する人と支援

 米ハリウッドの大物プロデューサーだったハーベイ・ワインスタイン氏は女性2人への性的暴行などで2018年に起訴され、2020年に裁判所は禁錮23年の実刑を言い渡し、収監された。大きな影響力を持つ大物プロデューサーという立場を利用して同氏は、多数の女優らにセクハラや性的暴行を行っていたとされる。

 同氏の長年に渡る悪行を暴いたのは2017年のニューヨークタイムズ紙。それをきっかけに、被害を受けたとする女優らが名乗り出て同氏を糾弾した。告発の動きは拡大し、他の有名俳優らの過去のセクハラなども明るみに出て、「#Me too」運動に発展した。セクハラ被害にあったのは女優だけではなく、少年の頃にセクハラ被害にあったと告発する男優も続出し、米映画界ではセクハラや性的暴行が横行していた気配だ。

 米国では富豪の投資家だったジェフリー・エプスティーン氏も多数の少女に対する性的人身取引罪で起訴されたが、2019年に拘置所で自殺した。同氏は過去に児童買春の罪で有罪判決を受けた人物だったが、ビル・クリントンドナルド・トランプら政治家や投資家、俳優ら著名人と親しく、その一人が、エプスティーン氏の邸宅や私有の島にある別荘で未成年の女性に性的暴行を働いたとして告発、提訴された英アンドルー王子。

 米国と同様に日本の映画界でも、影響力を持つ強い立場の人物によるセクハラなどが横行していた気配だ。監督やプロデューサー、俳優らのセクハラや性的暴行に対する告発が週刊誌で最近相次いで報じられた。監督やプロデューサーらのセクハラや性的暴行は以前から一部で問題視されていたというが、表面化は封印され、是正しようとする動きは業界に乏しかった(過去の巨匠監督や大物プロデューサーも同類だったというから、業界の浄化が行われるはずもなかったか)。

 映画界や芸能界などでは枕営業が珍しくないと言われてきた。枕営業とは「仕事の利害関係者同士が性的な関係を築くことで、業務が有利に進むようにする営業手法」とか「地位・権力のある人と性関係を持つことで、業務上の便宜を図らせる営業手法」とか「販売員などが、契約成立の交換条件として顧客と性的関係を結ぶこと」とか「肉体関係によって顧客や仕事、利益を得ること」とされる。

 枕営業では一方は肉体を提供し、他方は何らかの利益を提供する。両者の合意の上での取引としての性行為であり、セクハラや性的暴行には該当しないだろうが、枕営業が例えば、映画界や芸能界にはびこっているとすれば、俳優やタレントらを強い立場の人が性的対象として見ることを助長するだろう。それがセクハラや性的暴行を見ぬふりをする業界にしてきた可能性がある。

 セクハラや性的暴行は密室などで行われることが多く、明るみに出すためにはセクハラなどを強要された人々が告発することが必要だ。同時に、そうした告発者を孤立させずに支援する社会でなければならない。誰と性関係を持つかは当人が決めることであり、奔放な性関係を繰り広げたとしても当人の自由だが、強い立場を利用するなどして性関係を強制する人間はゲス野郎でしかない。さて、この話題は映画化すると面白そうだが、業界内の抵抗を押し切って映画化するパワーが日本の映画界にあるのか不明だ。