望潮亭通信

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補給を断つ

 沖縄県沖の太平洋で中国海軍が大規模な演習を行った。報道をまとめると、中国側の発表は、▽共同戦闘作戦の強化に向け台湾周辺で演習を行った▽東部戦区は海軍と空軍が5月6〜8日に台湾東部沖や南西部沖の海空域で演習を行った▽演習は「複数の軍隊の共同戦闘能力を試し向上させる」狙い。中国軍の東部戦区は台湾や東シナ海を担当する部隊で、軍機関紙は演習の目的を、海空軍などの「統合作戦能力をさらに向上させること」とした。

 台湾国防部は、▽中国軍の演習には爆撃機や戦闘機、対潜哨戒機などが使用された▽中国軍の対潜哨戒機や爆撃機など計18機が5〜8日に台湾の防空識別圏に侵入して台湾の南東空域まで飛行し、台湾空軍機が緊急発進したーと発表した。この演習は「西太平洋の海上大型目標を攻撃する訓練だった」との専門家の解説を台湾紙は伝えた。

 日本の防衛省は、▽中国軍の空母が艦載機の発着艦訓練を沖縄県南方の太平洋で3日から連続10日間実施した▽発着艦回数は200回を超えた▽これまでで最も日本に接近した海域での演習だったーとし、さらに▽空母を含む艦艇8隻は5月2日に沖縄本島宮古島の間を太平洋に南下し、3日から沖縄県沖大東島の南西約160キロから石垣島の南約150キロの海域で艦載機の発着艦訓練を行った▽海自の護衛艦が情報収集や警戒監視を行い、航自の戦闘機が緊急発進で対応ーと発表した。

 ▽中国軍の艦隊は、空母と空母を防御する中国版イージス艦ミサイル駆逐艦、中国海軍最大規模の最新ミサイル駆逐艦、燃料補給の高速戦闘支援艦などで構成され、「実戦的な艦艇の構成」(防衛省幹部)。演習の狙いは▽台湾有事を想定した大規模な合同演習だった可能性▽中国側から空軍の戦闘機が台湾に近づいたとされ、「海軍と空軍で台湾を挟み撃ちする作戦を想定した訓練の可能性」「台湾を包み込むように幅広い方向から攻撃できると中国軍が圧力をかけた」(同)。

 中国海軍の艦隊が宮古海峡を抜けて太平洋で演習を行うことはもう珍しいことではなくなったし、昨年10月には合同海軍演習を行った中国とロシアの艦隊が日本海から津軽海峡を抜けて本州の太平洋側を南下し、九州沖の大隅海峡を通って東シナ海に抜けた。中ロの艦隊が津軽海峡と大隈海峡をそろって通過したのは初めての行動。中国国防省は「他国の領海に進入しなかった」とし、ロシア国防省は「パトロールの一環として初めて津軽海峡を通過した」。中国は日本に対する軍事的な牽制を隠さない。

 今回の中国海軍の太平洋における演習は、台湾有事を想定したものという見方が妥当だろうが、ウクライナ情勢が微妙に影響した可能性もある。それは、中国軍が台湾に侵攻した場合、台湾に対する米国からの武器などの補給を断つ必要性が明らかになったからだ。ロシア軍に対して劣勢と見られていたウクライナ軍が有効な抵抗を続け、ロシア軍の「勝利」を阻止しているのは米国や欧州諸国からの武器の大量補給が貢献しているとされる。

 海に囲まれた台湾に中国が侵攻した状況で、台湾に武器を補給できる能力を持つのは米国だけだ。米国から台湾への武器などの補給を阻止するためには中国海軍や空軍が、台湾に近づく米国の艦艇や航空機を排除しなければならない。おそらく従来の中国海軍の太平洋における演習は、台湾への侵攻と米国艦艇の牽制を想定したものだっただろうが、ウクライナ情勢から、台湾への武器などの補給を断つ必要性が大きくなった。沖縄ー台湾間の連絡を断つことも含め今後、太平洋で中国海軍の演習は様々な想定で頻繁に行われるだろう。