望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





軍事パレード


 中国の戦国初期(二千数百年前)に生きた兵法家の呉子が現代によみがえり、中国政府高官に会って、兵法の極意を伝授すると言ったという。その中国政府高官は「中国政府は、戦争を好まない」と言った。



 呉子は言った。


「どうして心にもないことを言うのですか。このところ中国政府は、何をつくらせておられるのです。この前の盛大な軍事パレードで披露したのは、国産化率を高めたと自慢する最新の兵器ではありませんか。



 米東海岸まで届くという改良された移動式の大陸間弾道ミサイルICBM)「東風31A」、台湾を狙う短距離型(東風11Aなど2種)のほか、日印を狙う中距離弾道ミサイル「東風21C」、低空で2千キロ飛ぶという対地巡航ミサイル「長剣10」の弾道・巡航ミサイル……。


 陸上車両では最新型の重戦車「99式」、海からの上陸作戦に使う水陸両用戦闘車が披露され、上空には2種類の空中警戒管制機(AWACS)、ロシアの戦闘機スホイ27をコピーした国産機「殲11」が編隊で飛行し、空中給油機や爆撃機も現れたではないですか。



 いったいあなたは、これらのものを何にお使いになるおつもりなのですか。
 いうまでもなく非常事態に備えてのことでありましょう。他国への進撃の準備をしておきながら、それらの道具を適切に使いこなす人材がいなくては、戦意だけあっても、結局は自殺行為に等しいものです。


 昔、諸候の一人であった承桑氏は、徳を重んじて武備を廃したため、国を滅ぼしてしまいましたし、有扈氏は兵力の数をたのみとして、武勇を好んだため、国家を失う結果となりました。


 聡明な国は、これらの教訓に学び、内には文徳をおさめ、外には武備をととのえるものです。敵が攻めて来なくても、戦争は正義にあらずとして、進撃しようとしないのは機を失うというものですし、戦死者の屍を見て悲しんでいるだけでは、仁とはいえません。権力は銃で奪うものですし、領土は血で奪うものです」



 その言葉に感激した中国政府高官は、とりたててやると呉子に言い、呉子は感謝して国政について言った。


「もしも行いが、道にそむき、義に合わないのに、高位、高官の地位にぬくぬくとしておれば、かならず、その身に災いがおそいかかってくるであろう。


 そこで聖人は人民を道によって安堵させ、義によって治め、礼によって動かし、仁をもっていつくしんできた。道、義、礼、仁の四つの徳を守ってゆけば、国は盛んになり、それを実行しなければ国家は衰亡する」



 中国政府高官は、とりたててやると言ったのに謝礼を渡そうとしない呉子を不快に感じ始めていたところに、国政にまで口出す様子に警戒感を持ち、呉子を拘束して尋問、密かに処刑してしまった。
 (尾崎秀樹氏訳「呉子」を参考にしました=中公文庫)