望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

グレタはどこだ

 EUは2月2日、原子力天然ガス発電を環境にやさしい「グリーンエネルギー」として認め、「持続可能な投資」に分類できるとした。太陽光や風力など再生可能エネルギーだけに頼ることはできないのが現状だとし、温室効果ガスの排出削減に原子力天然ガス発電が役立つと認めた。年内に全ての原発の運転を停止する予定だったドイツなどは反対を表明した。

 ロシアがウクライナへの侵攻を開始したのは2月24日。これで、欧州のエネルギー供給がロシアに大きく依存していたことが問題視され、ロシアからの原油天然ガス供給に頼りながら脱炭素を進める戦略の見直しを欧州各国は余儀なくされた。再生可能エネルギーだけでは冬場の暖房さえ賄うことができない現実なのだから、欧州の各国政府は綺麗事の脱炭素にこだわってはいられなくなった。

 例えばドイツは、ロシア産ガスへの依存度を引き下げるためにエネルギー政策を大きく転換する方針を表明したが、石炭火力発電所原子力発電所の運用期限を延長すると見られている。ロシアからのパイプラインに頼っていた天然ガス供給を見直し、初めてのLNG輸入ターミナル建設を決めるなど目先のエネルギー確保に懸命だ。

 再生可能エネルギーを大幅に増やし、石炭火力発電所などを停止することで脱炭素社会への転換を目指す欧州の戦略は挫折した。ロシアからの天然ガス原油の供給に頼りながら欧州は、世界的に脱炭素の動きをリードしてきたが、実態は天然ガス原油などの安定的な供給が脱炭素に不可欠だった。

 欧州が急ピッチで進める電機自動車(EV)の普及も、再生可能な発電は供給が不安定で、ロシアからの天然ガスなどに頼った発電に支えられているとすれば脱炭素は看板倒れ。慌てて原発をグリーンエネルギーだと認めて帳尻合わせに動いたところで、ロシアがウクライナに侵攻した。ウクライナの情勢が毎日大きく伝えられるようになり、エネルギー供給の不安が高まり、脱炭素の運動のニュースはほとんど消えた。

 欧州が脱炭素を強くアピールしていた頃に、欧州のマスメディアに頻繁に登場していたのがスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリさんだ。戦争で正規軍を動かすと、戦車など戦闘車両や輸送車両などが大量のCO2を排出する。戦争となれば大量のCO2排出などに構ってはいられず、地球温暖化を促進するだろう。だが、活発に地球環境の危機を煽っていた連中も、リアルな眼前に出現した人々の生命に関わる危機を前に、反応が鈍い。

 グレタさんが関係する組織がウクライナ侵攻への抗議活動を開始し、ロシアからガスを買うなと訴えているそうだが、グレタさん本人の発言は聞こえてこない。学校に行かずに抗議活動するなどグレタさんは行動において独創性があったが、発想や思考において独創性が希薄だったことを思い出すと、戦争と環境保護の関係で言うべきことがなくても不思議ではない。環境保護活動は平時において活発化する運動であり、有事においては環境保護など二の次三の次になるから、黙っているのが賢明か。