望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

G2論の今


 リーマンショックでもたついたとはいえ、なお強大な経済力と軍事力を有する米国と、世界金融危機のもとでも経済が急成長を続け、アフリカ・アジアなどで影響力を増大させる中国。EUと日本は経済的に弱体化し、発言力も弱くなり、米国と中国が突出した存在になるというG2論。



 10年以上前からはG2論をあちこちの雑誌などで見かけ、冷戦という米ソによる世界分割支配はロクでもないものだったが、米中の世界分割支配もロクなものにはなりそうにないと思っていたら、あまりG2論を見かけなくなった。替わりに増えてきたのが、中国は既存の国際ルールに従わず、中国ルールを振り回すという論。



 キョロキョロと流行に目を配り、「中国が強大になってきたから、米国と合わせてG2論だ」とでっち上げて、次には「米国は、控えていた中国批判を再開したから、G2による協調はない。よし、中国異質論だ」と企画を立て、得意顔の編集者の様子が目に浮かぶ。



 米ソが対立していた頃、ソ連の米国経済への依存度は高くはなかったが、今の中国経済は米国への依存度が高く、EUや日本なども含め「西側」経済に組み込まれている。中国は西側との決定的な対立を選択することはできず、米国にも世界を動かす余力はあまりないように見える。G2論は時期尚早だったのかも。



 西側企業の生産地となることで成長を始めた中国では、内需振興へ経済構造を転換しようとの掛け声が多く聞こえてくるが、いくら計画したとて、内需主導への経済構造の転換は簡単にはいかない。



 中国は貧困層を数億人抱えているのだから新規需要が見込まれ、内需転換はうまくいきそうだが、でも役人が皆に現金を配るはずもなく、インフラ整備に大金が注ぎ込まれる。そうした資金から国営企業が上前をはね、役人の懐にも結構流れ込むといわれ、貧乏人が使っても汚職役人が使っても、金は金だ……というわけで、中国では内需がゆっくりと増加してきました、となるのかしら。



 米国、中国ともにG2論は「重荷」だったのかもしれない。G20の中では少し抜きん出ているけど、世界を力づくで引っ張っていくほどの決意も準備も体制も米中にはないとしたら、世界は「集団指導」体制で行くしかない。「でも、G20論では企画にならない」という編集者のため息が聞こえてきそうだ。