望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





鳥を見る人々

 鉄道を愛でることを趣味とすることは最近ではすっかり市民権を得ている。書店には関連本が多数並び、テレビの旅番組でも、どこかの沿線を巡るなど鉄道に関連させた企画は定番となっている。一昔前は、鉄ちゃんなどと呼ばれて変わり者扱いだったのに、変わったものだ。



 同様のことは「オタク」にもいえる。この言葉は当初、自分の興味を寄せる狭い範囲にしか関心を持たず、社交性に乏しく、引きこもり気味のネクラな人間とのイメージをつきまとわせていた。それが最近では積極的に評価されるようになり、クールジャパンで一儲けしようとの産業界や官僚の思惑もあってか、オタク文化などと肯定的に評価されたりする。



 趣味なんてものは人それぞれ。鉄道ファンといっても、乗って旅をすることが好きな人もいれば、乗らずに写真を撮る人もいるし、車両自体が好きだと言う人もいる。自分の好きなことをやっていればいいだけで、趣味には社会からの「認知」が必要なわけではない。



 新しく出てきた趣味に対する評価は、当初は無関心であったり、時には冷笑されたりする。が、その趣味に関する情報が増えたり、マーケットとしての評価が認識されたりすると、一気にブームになったりすることもある。それにつれて新規参入者が増え、商業化の報いか代償か、趣味を巡る環境が荒らされて、古くからのファンが眉をひそめるなんてことにもなる。



 この趣味はどうだろうか。バードウオッチング。イギリスが発祥ともいう古くからある趣味で、日本でも各地に野鳥公園があったり、渡り鳥の飛来はニュースの季節ネタとして欠かせず、専門誌もあり、そうマイナーな趣味でもないようだが、愛好者がどこにでもいる多数派の趣味という印象も受けない。



 例えば、さいたま市を流れる芝川と武蔵野線が交差するあたりにある芝川第一調節池。径1キロ前後あろうかという広大な遊水池を囲む堤防(?)上に道があり、近隣の住民の散策地となっているようだが、三脚を立てて、望遠鏡や大きな望遠レンズをつけたカメラを覗いている人が結構いる。



 武蔵野線を途中下車して行ってみると、鳥を見ていたのは男性ばかり。わざわざ長い時間、鳥を探したり、待ったりことは女性には耐えられないのかと考えながら、駅に戻る途中、武蔵野線の線路近くで、電車を待っているらしきカメラを構えた撮り鉄の一団を見かけた。こちらも男性ばかり。



 趣味の楽しみ方で男女差はけっこう大きいのかもしれないが、カメラを持つ女性が増え、街歩きなど行動的になっているから、撮り鉄やバードウオッチングにも進出してきそうだ。