望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

肥満とウイルス

 世界肥満連盟と聞くと、肥満者の権利を主張する国際団体なのかとつい早合点したくなる。肥満者が多い米国で、肥満者は自己管理ができていないと見られ、出世に不利だなどと以前伝えられたが、一向に肥満者が減ったようには見えず、出世のチャンスから遠い多数の人々は肥満になっても構わないと諦めているのかもしれないな。

 肥満者が減っていないとすれば、肥満であることで向けられる差別や蔑視などに対して反発し、肥満者は自己主張を行うだろう。肥満者に対する差別や蔑視はおそらく世界各国で似たようなものであるだろうから、世界の膨大な数の肥満者が立ち上がり、権利を主張するために組織を作っても不思議ではない。問題は、主導する人が現れるかどうかだ。

 だが、世界肥満連盟は、肥満問題の解決について取り組む各国の科学者らの研究団体。この連盟が、世界の新型コロナウイルスによる死者約250万人のうち約9割(約220万人)が、人口の50%超が肥満という肥満率が高い国に集中していたとの報告書を発表した。さらに死亡率は、肥満率が50%以上の国で50%未満の国より10倍以上高くなっていて、肥満者が40%未満の国では新型コロナウイルスによる人口10万人当たり死者が10人以下だったが、50%を上回る国の死者は同100人を超えていたという。

 肥満がなぜ新型コロナウイルス感染による死亡につながっているのか、その関係はまだ明確ではないが、肥満により免疫が弱まった人が多くなっている可能性を研究者は指摘し、「肥満は感染症が重症化する確率を高める」とする。心臓や呼吸器の疾患、糖尿病が重症化の危険を高めることは既に分かっているが、肥満も重症化や死亡につながっている疑いが指摘された。

 肥満とは、体重が多いだけではなく体脂肪が過剰に蓄積した状態(厚労省サイト)。肥満度の判定にはBMIを用いる。体重(kg))を身長(m)の2乗で割った数字がBMI。「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、BMIが25以上のもの」が肥満だ(男女とも標準とされるBMIは22.0。これは、肥満との関連が強い糖尿病、高血圧、脂質異常症に最もかかりにくい数値とされる)。

 日本WHO協会によると、肥満は先進国と発展途上国の全てのあらゆる年齢層の人々に及んでいるそうで、2型糖尿病や心血管疾患、高血圧、脳卒中、各種の癌などの主要な危険因子とされる。肥満関連の疾病は世界中で死亡原因の上位3位に入っていると世界銀行。肥満は1975年以降、ほぼ3倍に増え、毎年400万人が肥満のために死亡しているという。

 肥満に伴う各種の人体への負担が感染症に対する抵抗力を弱めているのだろうが、新型コロナウイルスが怖いからと簡単に肥満体から抜け出せるわけではない。肥満率が高い国で死亡率が高いと指摘されても肥満者には何もできることはないだろう。肥満に伴う各種のリスクに新型コロナウイルス感染症が加わったところで、米国など肥満率が高い国で脱・肥満の動きが強まる見込みは少なさそうだ。